第1回 FEAの普及とその背景

FEAが設計現場にもたらす効果とは何か?

電磁界FEA(Finite Element Analysis:有限要素解析)はここ15年ほどの間、開発現場において採り入れられるようになり、急速な広がりを見せました。
その用途は現場のお客様の開発ニーズに応じて様々ですが、なぜFEAはそれほどの広がりを見てきたのでしょうか。また開発現場におけるFEAの効果とはいったいどのようなものなのでしょうか。
この小稿では、本年度一年間の予定でFEAの持つ特徴を多角的な視点から捉えることで、FEAが開発現場にもたらす効果についてご紹介して参ります。

プレFEAの時代

よく知られていることですが、FEAは計算機を利用した解析手法です。近年は開発現場でもFEA専用の計算機が置かれていることも珍しくなくなりました。また100万要素を超えるような大規模解析や多ケースにわたる解析も頻繁に行われるようになりました。しかし今から四半世紀ほど前までは、計算機の性能上の制約やコストの問題もあり、そのような環境はなかったと言ってよいでしょう。

それでは当時はどのようにして、開発現場では設計指針を得ていたのでしょうか。
長年の勘や経験といってしまえばそれまでですが、系統的に電気機器の磁気特性を解析する代表的な手法として磁気回路法があります。磁気回路法は現在でも広く用いられている汎用的な解析手法ですが、計算機が今ほど普及していなかった当時は、唯一といってよい解析手法でした。

磁気回路法はコアやコイル、磁石などから構成される機器を起磁力源や磁気抵抗により構成される等価的な磁気回路に置き換えて、磁気回路上の磁路に発生する磁束量を見積もる手法です。図1にモータとその上に重ねて描かれた磁気回路の例を示します。この手法は簡単な磁気回路であれば、大規模な計算を必要としないため、計算機環境がなくても手計算で解くことができます。例として図2に示される電磁弁モデルを簡易的な磁気回路法により解いて得られた固定子と可動子間の電磁吸引力結果を図3に示します。図3ではFEAによる計算結果と比較をしていますが、簡単な磁気回路法にも関らず、それらしい結果が得られていることがわかります。

図1.モータの磁気回路例

また世の中には磁気回路法に基づくアプリケーションもあります。これらもわずかな計算機資源で解析できるため、瞬時に結果を得ることができます。
このため、FEAがまだ一般的ではなかった時代(プレFEAの時代)においては、磁気回路法は設計現場で幅広く使われていた手法でした。
それでは、今日なぜFEAの解析が必要とされ、急速に広まるようになったのでしょうか。/p>

図2.磁気回路法による電磁弁のモデル化

図3.図2の磁気回路モデルを解いて得られた吸引力特性

なぜFEAは急速に広まったのか?

磁気回路法は簡単で手軽に結果を得ることのできる便利な手法ですが、精度のよい結果を得るには”もっともらしい磁気回路”を導き出すことが必要となります。磁気回路の決定には、磁束がもっとも通ると予想される主磁路を選び出し、事前に磁路上の磁気抵抗を評価する必要があります。これには設計者の勘と経験が要求されます。

また磁気回路は形状や材料特性に強く依存します。形状が複雑になると、考慮すべき磁気回路も複雑になります。また材料の非線形特性が効いてくる場合は、動作点ごとの物性値や磁気抵抗値のテーブルが必要になることもあります。

図4は図3に示した吸引力の特性をさらに動作領域広げて比較した結果です。可動子と固定子のギャップが狭くなるにつれて磁気飽和が顕著になるため、磁気特性の差異が吸引力の差異として現れてきます(磁気回路法では線形特性を仮定)。また磁気抵抗はわずかな形状の差異で大きく変化するため、ギャップが狭くなるほど、吸引力の形状依存性も効いてくると予想されます。このため解析対象が複雑な形状になるほど、あるいは非線形特性が効いてくるほど磁気回路法の適用は困難になります。

設計の現場ではモータなど機器の性能を最大限に引き出すために、主磁路上の磁気飽和や鉄損分布を詳細に検討しながら、形状等を決定する必要に迫られることがよくあります。しかし磁気回路法は手法上、解析対象を等価回路に置き換えて解くため、対象内部の磁束密度分布や鉄損密度などの分布量を見ることができません。

図4.図3の動作範囲を広げたときの吸引力特性

FEAはこのような場合に威力を発揮します。FEAを利用すれば、図5に見られるように、モータ内部の磁束密度分布を詳細に確認することができます。またトルクリップル波形など形状を反映した物理量を詳細に検討することも容易です。

FEAはモデル化にあたって設計者の勘や経験に頼ることなく、形状を実機に近い状態でモデル化し、材料特性も正確な値を投入して解析を行います。このため、設計の熟練者でなくても正しいモデル化手順を踏めば、誰でも等しく高精度な結果を得ることができます。

さらに測定では機器の内部の磁気飽和や渦電流分布を直接確認することはできませんが、FEAはそれを可能にします。FEAを使えば測定で得られる以上の情報を提供することも可能です。

図5.モータ内部の磁束密度分布例

今号では、設計現場におけるFEAの急速な普及とその背景について概観させて頂きました。次号ではFEAの特徴である高精度で詳細な解析について、これを可能にしている技術的な背景をご説明したいと思います。

[JMAG Newsletter 2011年春号より]

絞込み検索

  • カテゴリー 一覧