JMAG-Expressによる三相誘導電動機設計

JMAG-Expressによるモータ設計

モータ設計ツールであるJMAG-Expressに便利な機能が着々と追加されています。本稿では三相誘導電動機を例にして、JMAG-Expressを活用した設計事例を紹介します。設計業務の効率化に是非ともJMAG-Expressを活用してください。

JMAG-Expressとは

JMAG-Expressとは、概念設計から基本設計までの検討をカバーしたモータ設計ツールです。
JMAG-Expressには、基本特性を1秒で計算するクイックモードと、磁束密度や損失密度等の分布量やコギングトルクや誘起電圧等の時系列結果が評価できるパワーモードの2つのモードを用意しています。JMAG-Expressを活用したモータ設計のフローを示します(図1)。概念設計時に、モータの大まかなレイアウトを決める段階ではクイックモード、基本設計時にはパワーモード、詳細設計案を固める段階ではJMAG-Designerを利用します。
本稿では、JMAG-Express クイックモードとJMAG-Express パワーモードを用いて説明します。

図1 JMAG-Expressを活用した設計フロー図1 JMAG-Expressを活用した設計フロー

クイックモードによる誘導電動機設計

三相誘導電動機を例にJMAG-Expressを利用した設計方法の一例を紹介します。初期設計案の形状と要求仕様を示します(図2、表1)。定格回転数で出力0.5(kW)を満たすための検討を紹介します。

図2 初期設計案の形状図2 初期設計案の形状

表1 要求仕様
極数 4
周波数 50 (Hz)
定格出力 0.5 (kW)
定格回転数 1425 (RPM)
最大電流 50 (A)

初期設計案の特性評価

クイックモードを用いて、モータ形状を作成します。クイックモードでは、テンプレートからロータとステータの組み合わせを自由に選択、変更できます(図3)。寸法パラメータを変更するだけで、簡単にお望みの形状を作成することができます。今回は、ロータには角型モデル、ステータには歯先角一定モデルを選択し、寸法パラメータを変更することで初期設計案とほぼ同じ形状のモデルを作成できました(図4)。材料や巻き線も初期設計案の仕様に合わせた結果を示します(図5)。定格回転数で0.4(kW)程度しか得られておらず、要求を満たしていないことが確認できます。

図3 形状タイプの選択図3 形状タイプの選択

図4 JMAG-Expressで作成した初期設計案図4 JMAG-Expressで作成した初期設計案

図5 クイックモードで計算した特性結果図5 クイックモードで計算した特性結果

バー深さ変更による性能改善

ロータのバー深さを変更することで、モータ性能が改善できるか検討します。クイックモードには、パラメトリック解析機能も搭載されているので、この機能を使用して、最適なロータのバー深さを決めます。
JMAG-Expressのデータシートから、変更したい変数を選択すると、パラメトリックの範囲を設定するダイアログが起動します(図6)。範囲と分割数を指定し、評価ボタンをクリックするとパラメトリック解析が実行されます。パラメトリック解析が終了すると、全てのケースの結果が一つのグラフに表示され、簡単に比較することができます(図7)。グラフの表示非表示もチェックボックスで切り替えられますので、絞込み検討も簡単に行えます。バーの深さを初期設計案の5mmに設定した場合と10 mmにした場合の計算結果とバー形状を示します(図8、図9)。出力が要求を満たし、効率が一番高いバー深さ10 mmを採用することにします。10 mmに変更することで、2次抵抗値が下がり、最大トルクの回転数が上がっていることが確認できます。また、出力も定格回転数で0.5(kW)を満たしています。バーを深くすることで、コストや機械強度も変わりますので、確認は別途必要です。

図6 パラメトリック範囲設定画面図6 パラメトリック範囲設定画面

図7 パラメトリック解析結果(バー深さ5mm~12mm)図7 パラメトリック解析結果(バー深さ5mm~12mm)

図8 パラメトリック解析結果(バー深さ5mmと10mm)図8 パラメトリック解析結果(バー深さ5mmと10mm)

図9 ロータのバー形状(上:深さ5mm、下:深さ10mm)図9 ロータのバー形状(上:深さ5mm、下:深さ10mm)

巻線変更による特性改善

コイルスペースを有効活用することで、さらに特性を改善できないか検討します。通常であれば、コイルスペースや占積率は寸法や素線径から自分で計算しなければなりません。しかし、クイックモードでは、素線径や絶縁紙の情報から自動的に占積率を算出します(図10)。また、コイルピッチや層数等の巻線方法によって変わる抵抗値も自動で計算します。
占積率が40%以下となるように、素線径と巻数を変更し、最適な組み合わせを見つけます。計算時間が1秒しかからないので、繰り返しの計算が簡単に行えます。今回は、占積率に少し余裕がありましたので、巻数を48ターンから50ターン、素線径を1.1mmから1.2mmに変更しました(図11)。巻数を増やすことで総抵抗は上がります。しかし、素線径を大きくすることで単位長あたりの抵抗を下げ、トータルの抵抗を下げることで、最終的に効率を上げることができました。巻数を増やすことで、少し出力が上がっていますが、定格回転数ではほとんど変わっていません。

図10 巻線設定画面図10 巻線設定画面

図11 巻線検討後の計算結果図11 巻線検討後の計算結果

パワーモードによる詳細検討

クイックモードの検討結果を受けて、詳細検討をJMAG-Expressパワーモードで進めます。クイックモードではトルク等の平均値で検討しておりましたが、パワーモードでは磁束密度等の分布や、トルク等の時系列結果だけでなく、過渡現象を考慮した特性評価が可能となります。パワーモードを活用して、最終設計案を作成します。

ラインスタート時の特性確認

この誘導電動機は直接電源に接続する最もシンプルなラインスタートで始動するとします。初期設計案と比較して、2次抵抗を下げたので、始動トルクが小さくなっています。始動できるかどうかの確認はもちろんですが、誘導電動機特有の現象であるクローリングにより、定格回転数まで上げられるかどうかも確認する必要があります。クローリングを評価するためには、過渡現象を考慮する必要がありますが、パワーモードを利用することで簡単に確認できます。
始動電流についても確認する必要があります。始動電流の大きさは誘導機電動機に接続する電源容量や誘導電動機のコイルに働く電磁力、熱容量などに影響を及ぼすため、確認しておく必要があります。大電流が流れることによる局所的な磁気飽和を考慮する必要がありますが、パワーモードを利用することで簡単に確認できます。
パワーモードにはラインスタート解析の機能が搭載されています(図12)。得られた結果を示します(図13~15)。回転数の結果から定格回転数に達していることが確認でき、問題なく始動できることが確認できました。また、要求仕様で示した最大電流以下におさまっていることも確認できました。また、局所的な磁気飽和から漏れ磁束が発生し、トルクを下げることがあります。磁束密度分布から局所的な磁気飽和や大きな漏れ磁束が発生していないかを確認します。

図12 ラインスタート解析の設定図12 ラインスタート解析の設定

図13 回転速度結果(ラインスタート解析)図13 回転速度結果(ラインスタート解析)

図14 電流結果(ラインスタート解析)図14 電流結果(ラインスタート解析)

図15 磁束密度結果(ラインスタート解析)図15 磁束密度結果(ラインスタート解析)

JMAG-Express Publicから設計を始めよう

JMAG-Expressが誘導電動機の設計に有用であることはをお伝えしました。また、クイックモード単体でも誘導電動機の設計を検討できることを理解いただけたかと思います。JMAG-Expressを体感いただくために、無償版のJMAG-Express Publicから始めていただきたいと思います。JMAG-Express Public とは、JMAG-Expressクイックモードと同様に、基本特性を1秒で計算する無償版の設計ツールです。
JMAG-Express Publicは簡単に入手できますので、以下の方法でソフトウェアとライセンスを取得してください。

  1. ダウンロード方法
    JMAG-Express PublicのWEBページにアクセスして、JMAG-Express Publicをダウンロード。
  2. ライセンスキーの取得
    WEBページからライセンスキーの申し込み。
  3. インストールとライセンスキーの設定
    JMAG-Express Publicをインストールし、送られてきたライセンスキーを入力。

JMAG-Express Public WEBページ

最後に

最後に、JMAG-Expressを是非とも誘導電動機の設計に活用していただきたいと思います。紹介しましたJMAG-Express Publicは、無償ですので、どなたでもお使いいただける設計ツールです。

(服部 哲弥)

[JMAG Newsletter 2014年6月号より]

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