第4回 材料モデリング、限界設計に貢献する高い分析力

精緻なモデリング技術

このテクニカルレポートでは、JMAGの技術開発内容をご紹介します。
第4号である今回からは、モデリング技術についてご紹介したいと思います。
モデリング技術の1回目は「材料モデリング」についてです。

ミクロで非線形、奥深い材料モデリングの世界

この式は教科書でおなじみの磁界解析の基礎方程式です。シンプルに記載された式とは裏腹に、σ(電気伝導率)やM(磁化)は非線形な特性をもち、部材の中で複雑な分布を示します。これが物理現象を複雑にするとともに、電磁機器の性能に大きくかかわっています。つまり、複雑な材料特性をどうモデル化するか、材料モデリングはシミュレーション技術の中でも重要な位置を占めます。

このミクロで非線形な材料特性は長年のシミュレーション技術の蓄積により実用的にモデル化されるようになりました。磁化特性の非線形性はBHカーブを点列で入力し、ニュートンラプソン法によって計算することができます。また、鉄損解析ではSteinmetzの経験式など優れたモデルが存在します。しかし、機器の小型化、高効率を目指す限界設計を行うためには、より精度の高い材料モデリングが必要になります。

限界設計で求められるモデリング精度と分析力

車載用モータなど小型化が進むモータなどでは同時に低コギングトルク、低損失の設計も要求されます。そうした小さいコギングトルクを正確に捉えるためにはシミュレーションにも高い精度が求められます。前回ご紹介したようなメッシュ生成エンジンがもつノイズキャンセリング技術などにより数値解析としては精度を高めることができます。しかし、それでも解析結果は実測とあいません。それは解析精度が上がるとともに材料特性のモデル精度、たとえば磁気特性の異方性を考慮するかなどの影響が出てくるためです。限界設計においては材料モデリングにおいても高い精度が求められるのです。

材料モデリングは高精度に現象を再現するために重要な要素ですが、もうひとつ「分析する」ツールとしても重要な一面を持ちます。たとえば焼ばめ応力が磁気特性に及ぼす影響を考える場合、実測や実験では性能特性を見ることはできても、その影響を「分析する」ことは容易ではありません。シミュレーションこそがそうした微妙ではあるが重要な材料特性の違いの影響を分析することに強いといえます。またその違いを浮き出させるのが材料モデリングの技術でもあります。

材料モデリングの分析力は問題解決においても重要です。たとえば磁石の特性データの精度が悪く、逆起電圧の波形が合わないような場合には着磁解析が適用されることがあります。このように精度の高い材料モデリングは問題の分析、解決には不可欠な技術です。

図 焼きばめ応力を考慮した鉄損解析図 焼きばめ応力を考慮した鉄損解析
実測・実験では見えない応力による劣化の影響

総合的、分析力のあるモデリングツール

ひとことで材料モデリングと言うことは難しく、その言葉のカバーする範囲は広いです。ここでは以下のように考えてみたいと思います。

材料モデリング=材料特性+複合材+外部環境

材料モデリングの精度を上げるためには、単に精度のいい材料特性をもつだけでなく、積層鋼板などの複合材のモデル化や熱や応力の影響など総合的に考える必要があります。JMAGには材料モデリングを総合的にかつ分析的に行うためのツールがそろっています。

(1) ノウハウがつまった材料データベース

JMAGには材料メーカから提供されている磁気特性、損失特性などの材料特性がデータベースとして搭載されています。
データベースはメーカが保証する信頼できるデータを簡単に使えるというメリットとともにメーカの材料モデリングのノウハウも搭載しています。たとえば日立金属様より提供されている磁石データによる不可逆減磁の解析、新日鐵様より提供されている応力依存性の磁気特性などです。また、これらのノウハウを元にJMAGではユーザーが不可逆減磁特性や応力依存性の磁気特性をモデル化できるようになっています。

(2) 複合材を目的に応じてモデリング

積層鋼板や異方性を持った部材のモデリングで重要なのは高い精度とともに、目的にあわせてモデリング手法を選べることです。たとえば積層鋼板をメッシュで表現することは常には必要ではありません。通常はブロックでモデル化し、占積率を設定することで解析負荷を抑えます。ただし、薄型のモータなど軸方向の磁束が強まる場合、モータ表面に積層をモデル化したメッシュを作成する必要があります。
JMAGではモデリング精度を高めるツールはもちろん目的に応じて最適なモデリング手法が選択できることが強みといえます。

(3) 連成解析による外部環境の影響の考慮

材料特性は温度や応力によって変わります。これらの影響を見るためには、温度依存性、応力依存性の特性を定義できるだけではなく、温度分布や応力分布を正確に捉える必要があります。JMAGには連成解析の機能があり、温度依存性や応力依存性の影響を正確に捉えることができます。連成解析の技術の詳細については、次号でご紹介したいと思います。

使い方がわかってこそモデリング “力”

JMAGには総合的で分析力のあるモデリングツールが搭載されていることを紹介してきましたが、では実際にそれら多くのオプションをどのように使いこなすのか、これもまた大きな課題です。
JMAGの材料モデリング技術は30年にわたる解析経験を通して築き上げられてきました。材料モデリングの精度を高めるためにはどうすればよいか、実測とあわせこむにはどうしたらよいか、こういった機能を「使う」ノウハウがあってこそモデリングツールが活きてきます。
またJMAGの解析エンジニアは実際にモデリングの妥当性や新しいモデリング手法の開発のために、実測を通して実証作業をしています。

設計の神は細部に宿る

限界設計などモノづくりの要点は、微妙だが重要な材料特性や部材の構造の「違い」に隠されていると思います。JMAGはこうした細部の違いに光を当てるためのモデリングツールと、分析する力を提供します。 これからも複雑な材料モデリングへの挑戦は続きます。

次号は連成解析など物理モデリングについてご紹介します。

[JMAG Newsletter 2009年12月号より]

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