第5回 マルチフィジックスシミュレーションを支えるフレキシブルマッピング

精緻なモデリング技術

このテクニカルレポートでは、JMAGの技術開発内容をご紹介します。
第5号である今回は、モデリング技術の2回目「物理モデリング」についてです。

マルチフィジックスシミュレーションを支える材料モデリングとマッピング技術

近年、連成解析などのマルチフィジックス(磁界、熱、構造、電界)のシミュレーションが広く行われるようになってきました。ひとつには限界設計では磁気的な最適設計をつめていくと同時に機械的、熱的な評価も行い、戦略的な設計判断を行うためには磁界解析のみでは十分ではなくなってきたからです。磁気設計で最適化しても構造的に強度が不足する場合もありますし、機器の小型化に伴い、発生する熱をどう取り除くかという熱設計にもより詳細な検討が必要になってきています。もうひとつにはJMAGなどソフトウェアもマルチフィジックスに対する技術開発を行ってきたこともあげられます。こうしてマルチフィジックスのシミュレーションは使いやすく、精度の高いものになってきています。
マルチフィジックスシミュレーションを実現するために重要な技術要素は2つあります。「材料モデリング」と「マッピング技術」です。前者は前号でも書きましたが、温度依存性、応力依存性に考慮した材料モデルをシミュレーションソフトが持つ必要があります。JMAGでは磁気特性、損失特性などをはじめ多くの材料データに温度依存性、応力依存性を考慮したモデルを適用することができます。たとえば熱減磁を考慮した永久磁石の減磁特性は温度分布を考慮して変化します。後者の「マッピング技術」とは、材料モデルに対してインプットである温度や応力の情報を異なる解析間で「マップ」するものです。今回はJMAGの「マッピング技術」について見ていきたいと思います。

フレキシブルなマッピング

マッピングとは、たとえば磁界解析で求めた損失分布を熱解析の発熱分布として「マップ」することです。マッピングは大きく分けて2つに分けられます。「空間マッピング」と「時間マッピング」です。そして異なる解析間ではそれぞれのモデルの空間解像度(メッシュや形状)、時間解像度(時間刻み)が異なります。JMAGは異なる空間解像度、時間解像度のモデル間で物理量をマップする「フレキシブルマッピング」の技術をもっています。

(1) 空間マッピング

JMAGのマッピング技術は異なる解像度のメッシュ間で物理量をマップします。たとえば、磁界解析と構造解析では精度を出すために必要なメッシュの粗密が異なります。JMAGでは異なる解像度のメッシュであっても物理量を補間することでマッピングを行います。JMAGでは連成解析時にメッシュを別々に作成できることでそれぞれの解析で十分に精度を追求することが可能なのです。
JMAGのマッピング技術は異なる次元のモデル間で物理量をマップします。モータの磁界解析は通常2次元で行われます。しかし、熱解析、構造解析では3次元でモデル化されることがあります。JMAGは2次元の損失分布を高さ方向に拡張して3次元モデルにマップします。逆に3次元解析で求めた物理量を断面を指定することで2次元モデルにマップします。JMAGでは次元をあわせるために不必要に3次元モデルを作成する必要がありません。

JMAGのマッピング技術はモデルの作成方法が異なっていても物理量をマップします。たとえば、モータの解析を考えます。磁界解析は2次元モデル、熱解析は3次元モデルです。熱解析ではコイルエンドがモデル化されています。しかし磁界解析ではモデル化されていません。この状態でもJMAGはコイルに発生するジュール損失を熱解析のモデルにマップします。JMAGでは回路のコイルに生じる損失総量を熱解析のコイルの部品にマップします。JMAGのマッピングはモデルの作成方法に自由度を与えます。

JMAGのマッピング技術は対象が運動していても物理量をマップします。たとえば誘導加熱のシミュレーションを行う場合、多くの被加熱体が運動しています。つまりマップする対象がステップごとに移動していくわけですが、JMAGは運動の状態をモニタして問題なく物理量をマップします。

(2)時間マッピング

磁界解析の対象となる現象と熱解析で対象となる現象ではタイムスケールが異なります。JMAGは異なるタイムスケールでも物理量をマップします。過渡現象を連成解析でシミュレーションする場合、時間刻みが小さい方に合わせてしまうと計算量が増えます。JMAGはタイムスケールが小さい現象を定常状態と仮定し、1周期分の結果を平均してタイムスケールの大きい現象の解析にマップします。また、磁界解析と構造解析(周波数応答解析)では過渡解析の電磁力を周波数分析して構造解析のモデルにマップします。

他ソフトとの連携

ここまではJMAGを使った連成解析の話をしてきましたが、JMAGは他ソフトに対しても物理量の情報を渡すことが可能です。たとえばJMAGの構造解析はNASTRANのデータと互換性があります。そしてマッピングによりJMAGで計算した電磁力分布を考慮したNASTRANの入力ファイルを出力することができます。他ソフトとの連携はJMAGがプロダクトポリシーに掲げるように(オープンインターフェース)重要な項目です。

今回は物理モデリングでも「マッピング技術」についてご紹介しました。JMAGは磁界解析、熱解析、構造解析、電界解析をサポートしており、それぞれに特長ある機能をもっています。それらについてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

鋼板の高周波誘導加熱解析
運動を考慮した発熱分布のマッピング

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次号は制御・回路モデリングについてご紹介します。

[JMAG Newsletter 2010年1月号より]

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