目次
1. 概要
2. 軸電流・コモンモード電圧
2.1 コモンモード電圧
2.2 軸電流
3. FEAと等価回路の直接連成による解析アプローチ
4. 適用事例
5. まとめ
6. 参考文献
1. 概要
近年、電気自動車の普及や産業機器の省エネ要求に伴い、モータ駆動用インバータにはSiCなどのワイドバンドギャップ半導体が採用され、一層の高速スイッチング化が進んでいる。スイッチングの高速化は高効率化に寄与する一方、コモンモード電圧を増大し、軸受の絶縁破壊による軸電流を発生させる可能性を高める。また軸電流は軸受の電食を引き起こし、モータの信頼性を著しく低下させる要因となり得る。信頼性確保やEMI対策の観点から、設計段階でコモンモード電圧、軸電流などの高周波現象を正確に予測することは極めて重要である。ここでは、各部の寄生成分を考慮した高周波経路を等価回路で表現し、有限要素法(FEA)との直接連成で永久磁石同期モータの高周波現象を解析した事例を示す。また、等価回路のモデリングの指針とそれにより得られる計算精度についても触れる。
2. 軸電流・コモンモード電圧
ここでは、インバータ駆動されるモータにおいて発生するコモンモード電圧とそれによって引き起こされる軸電流の現象と発生メカニズムについて説明する。
2.1 コモンモード電圧
コモンモード電圧は、インバータの出力端子(U, V, W相)の対地電位の平均値として定義され、モータ駆動システムの故障やノイズの原因となる高周波現象の根本的な要因である。インバータ回路では、DCリンク電圧をPWM制御によりスイッチングすることで交流電圧を生成し、モータを駆動する。理想的な三相交流では、任意の瞬間の三相電圧の和は常にゼロである。しかし、PWMインバータのスイッチング動作においては、デッドタイムなどの影響により全相がDCリンクの正側または負側に接続されるゼロ電圧ベクトル状態を作るため、中性点電位と対地間に電位差が生じる。これがコモンモード電圧である。特徴として、スイッチング速度が速いほど、コモンモード電圧の大きさや周波数スペクトラムが大きくなることが挙げられる。SiCなどの近年普及しつつあるワイドバンドギャップ半導体は高速なスイッチングが可能な一方で、従来のSiインバータに比べ、コモンモード電圧を大幅に増大させる可能性がある。この電圧は、モータの巻線、フレーム、ケーブルシールド、大地といった経路に存在する浮遊容量を介して、コモンモード電流を発生させる。
2.2 軸電流
軸電流は、モータの軸受を電流経路として流れる電流である。軸受に電流が流れると、軸受の軌道面や転動体表面に微小な電食痕が生じ、最終的に軸受の早期劣化や故障を引き起こす。主な発生源として、コモンモード電圧が挙げられる。軸電流の発生メカニズムは主に静電誘導型軸電流と電磁誘導型軸電流の2つに大別される。静電誘導型軸電流は、コモンモード電圧の変動分がロータへの浮遊容量を介してロータに誘導されることによって生じる軸電流である。ロータは軸受を介してフレームに固定されているため、ロータとフレーム間に電位差が生じる。この電位差が軸受の絶縁耐力を超えると、潤滑油膜が破壊され、アーク放電を伴って電流が流れる。電磁誘導型軸電流(循環電流)は、コモンモード電圧起因で発生する静電誘導型軸電流とは異なり、モータ内部の磁気的不平衡によって発生する現象である。本稿では静電誘導型軸電流について扱う。
3. FEAと等価回路の直接連成による解析アプローチ
ここでは、コモンモード電圧、軸電流といった高周波現象を設計段階で精度良く予測するための解析手法として、FEAと集中定数等価回路を組み合わせた直接連成解析の方法について説明する。この手法は、モータの電磁界現象と、軸電流経路などの高周波回路現象を同時に捉えつつ、現実的な計算コストでの解析を実現する。先述の通り、モータをインバータで駆動する際、スイッチングの高速化に伴う高周波現象を正確に解析するためには、巻線とロータ、フレーム間に存在する浮遊容量や寄生インダクタンスといった寄生成分を考慮する必要がある。本稿では、高周波電流の主要経路を等価回路で表現し、それを電磁界FEAと直接連成させることでこれらの高周波特性を計算する方法を採用する。等価回路側で高周波電流の主要経路となる各部の浮遊容量を正確にモデリングして考慮することで、モータの準静電磁現象と高周波現象を高い精度で表現することができる。これにより、電磁場の空間分布をFEAで正確に考慮しつつ、インバータの高速スイッチングに起因するコモンモード電圧の発生からそれが誘起する軸電流までを一気通貫で評価することが可能となる。
4. 適用事例
ここでは、第3章で説明したFEAと等価回路の直接連成法を実際に永久磁石同期モータに適用した事例を報告する。解析対象のモデル形状を図4-1、諸元を表4-1に示した。本稿では、モータ内部に寄生する成分にのみ着目し、ケーブルやインバータ出力段といったモータ外部での寄生成分は考慮しないとしてモデル化を行った。適用した回路モデルの概略図を図4-2に示した。このモデルを回路モデル1と呼称する。

図4-1 モデル形状
表4-1 モデル諸元
| Item | Value |
|---|---|
| Poles / Slots | 8 / 48 |
| Lamination steel | 35(A) 300 |
| Magnet | NdFeB, Br=1.2 (T) |
| Rated output power | 80 (kW) |
| DC voltage | 600 (V) |
| Max. phase current | 250 (A) |
| Carrier frequency | 20 (kHz) |
| Operating point | 5,000 (rpm), 100 (Nm) (108 A, 61 deg) |
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