H.Miura Engineering(USA) 三浦 宏一
概要
近年MDA(Multi Disciplinary Analysis)又はMDO(Multi Disciplinary Optimization)などという言葉がよく使われるようになった。アメリカの航空宇宙学会(AIAA)ではMDOだけに的を絞った技術委員会が数年前から発足して、独自のシンポジウムを隔年開催し、また各種の会議にもMDOのセションを設けるように積極的に活動している。また国際的にはISSMO(IntemationalSociety for Structural and Multidisciplinary Optimization)という官僚色のない柔軟な組織があって、国際会議の開催などを通して最適化技術の交流をはかろうとしている。しかしながら一方では、設計の現場にかかわっている人で関連するすべての領域を同時に考慮することが出来ない者はいないのであって、そんなものは昔からちゃんと行われてきており、いまさら新しい言葉をつけて新しい学問の領域ができたなどと主張するのはおかしいという意見もある。以前まったくおなじような意見をConcurrentEngineeringについても聞いたことがある。
このような議論は、議論のための空論であって、なにも役にたつ結果が出てくるようなことは期待できないので、できれば単純に片付けてしまいたい。そこで次のように考えるのはどうであろうか。複合領域を考えた解析や設計は勿論昔から現場で実践されてきたことで、それ自体新しいことではなく、熟練した技術者が全部を見渡せて判断を下していける程度の規模と複雑さの問題であれば、熟練技術者の知識と身についたカンに頼った方が大抵の場合効率がよく、MDA,MDOと名付けようとどうしようと、血の通った技術者の柔軟性に頼るのが得策であるo しかしながら、設計にかかわるシステムの規模が大きく、内容が複雑に交錯しており、解析にも大規模な計算が必要で関係してくるデータの量が膨大になり、少数の技術者では整理して的確な判断を下すことが難しい場合は、この方面でも計算機の持つ高速処理能力を生かした方が得策であることは誰もが理解できることと思われる。従って、MDAもMDOも計算機による解析と同じようにCAE(Computer Aided Engineering)の一部分として位置付けて、必要がある場合に限って動員する一つのツールと考えておけばよいと思われる。
そこでしかるべきツールを用意する必要があるとすれば、そのツールとはどんなもので、またその開発のためにはどのような研究開発が必要になるのであろうか。この辺になると、人によって意見の分かれるところで、研究論文は盛んに発表されているが、今のところはっきりした指針になるような、理論的な裏付けはまだないと思われる。
設計の現場では、現実に必要であることがわかり成果が期待出来れば、理論よりも先に実践に向かうところもあり、例えば最新の旅客機Boeing777の開発には、これまでの開発組織を革新して、これまで比較的独立していた技術部門の聞に太い連絡パイプを作りあげ、期待以上の成果をあげることが出来たということである。777は開発から製造まで協力会社を含めて出来る限りの工程を共通のソフトウェアを使って互換性を実現し、更に飛行機を運用するエアラインの関係者までを開発部隊にとりこんで、計算機の活用によって開発スケジュールも開発費も計画から外れることがなかったモデルケースとされている。しかしながら、このレペルまで行ってしまうと、CAEの領域を大きく乗り越えて、PDM(Product Data Management)の領域にまで入っていくことになり、CABの中の一つのツールというような位置付けでは済まなくなってしまう。将来はこの辺の境界も自然に崩れて一体化するかもしれないが、私の理解できる範囲を越えてしまうので、本稿ではもとに戻ってCABのツールとしてのMOOに的を絞ることにする。
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