第1回 初期設計に活用しよう

モータ設計にFEAは有効か?

本稿ではモータを設計・利用されている方を対象に、シミュレーションを活用する効果を知って頂くことを目的としています。よりよいモータ設計のためにご参考頂ければ幸いです。

はじめに

コンピュータ、ソフトウェアの進歩に伴い、モータ設計分野で有限要素法電磁界解析(以下FEA)が活用され、実際に開発現場で成果が上がるようになっています。一方、FEAを利用されていない方は、”FEAが良いということは分かっているが、検討に手間も時間もかかるので、結局従来の設計シートの方が早いのではないか?”と思われるかもしれません。本シリーズでは”なぜ、モータの設計にFEAが有効なのか?”を解説していきます。よりよいモータ設計にFEAを活用するための参考としていただければ幸いです。

FEAのメリット

モータ設計分野において、FEAを使用するメリットを、従来良く使われている磁気回路法を使用した場合と比較して以下にまとめます。

  • モータの形状を細部まで表現できる
  • 磁気飽和を厳密に扱うことができる
  • 複雑な現象を可視化できる
  1. モータの形状を細部まで表現できる
    FEAではモータの形状を有限要素のメッシュであるがままに表現しますので、どの様な形状のモータであっても答えを得ることができます。それに対し、磁気回路法ではあらかじめ磁束が通る箇所を磁路として仮定する必要があります。仮定しなかった磁路は無いものとして扱われます。この点でFEAは複雑な磁路を持ったモータや、どう磁路を仮定すればよいかわからない新しいタイプのモータを検討したい場合に非常に有効です。
  2. 磁気飽和を厳密に扱うことができる
    磁気回路法でも磁路に非線形の透磁率を与えれば磁気飽和の影響をある程度考慮することができます。しかし、磁気飽和が強くなってくると磁路の中でも透磁率の分布が起き、扱いが難しくなります。さらに磁気飽和が強くなると磁束が仮定した磁路から漏れていきますが、この現象を扱うにはどの経路で漏れるか磁路を特定する必要があります。それに対し、FEAでは透磁率の分布や空間への漏れを考慮し、磁気飽和を厳密に扱うことができます。この点から、特に磁力が極めて強い希土類焼結系磁石を用いた昨今の永久磁石同期モータの設計ではFEAは必須といえます。
  3. 複雑な現象を可視化できる
    この点がFEAの最大のメリットといえます。モータの設計の結果、得られたトルクやインダクタンスなどマクロな量を見れば、モータの設計の善し悪しは分かりますが、本当に重要なのは”なぜそうなるか?”が分かるかどうかです。これが分からないと、よりよい設計を行う事が出来ません。FEAでは実測するのが極めて難しいモータ内部の磁束の分布を可視化することができます。これによって局所的な磁気飽和を把握し、原因の把握と対策に生かすことができます。また、磁束だけではなく渦電流、磁石の減磁などを可視化することで、より高効率で信頼性の高いモータの設計が可能です。

設計の各フェーズでのFEAの活用

モータの設計のフェーズをここでは便宜的に”概念設計、初期設計”、”詳細設計”、”設計を突き詰める”の三つに分けて、各フェーズでFEAのメリットがどのように生かせるかを今回から三回シリーズで解説していきます。

  1. 概念設計、初期設計段階
    この段階ではモータの特性を概算し、体格、極数やスロット数、大まかなレイアウトを決めます。第1回では概念設計、初期設計段階でのFEAの活用方法を紹介します。
  2. 詳細設計段階
    この段階では概念設計、初期設計段階で大まかに決定したデザインの各部の寸法や電流値などのパラメータを振ってパラメータスタディを行い、設計を最適化していきます。第2回ではFEAによる設計の最適化および、FEAの結果を分析し、設計への知見とする方法について紹介する予定です。
  3. 設計を突き詰める
    詳細設計で詰めた設計を更に突き詰めてよりよいモータを設計する場合や、実機試験で予想ほどパフォーマンスが得られない、不具合が生じた場合などの原因分析にFEAは有効です。例えば、永久磁石モータの磁石の渦電流、減磁、電磁鋼板にかかる応力の影響、誘導電動機の横流の影響など、FEAの高い分析能力が威力を発揮する事例を第3回で紹介する予定です。

永久磁石同期モータの初期設計

永久磁石同期モータはハイブリッドカーや電気自動車の駆動用、エアコンや洗濯機など、高いパフォーマンスと高効率が要求される分野で使われているモータです。磁力の高い希土類焼結磁石を用いていること、高い出力密度が要求されることなどから鉄心の磁束密度が高くなりがち、という特徴があります。
ここでは、永久磁石同期モータの初期設計でFEAがどのように活用できるか見ていきます。

埋込磁石型永久磁石同期モータの特徴

昨今、永久磁石同期モータの中でもリラクタンストルクを併用できる埋込磁石型(以下IPM)の採用例が増加しています。IPMはリラクタンストルクとマグネットトルクの按分を電流位相を制御することで実現できるので、広い運転域で高効率を実現できます。しかし、IPMは従来の表面磁石型よりもロータの設計の自由度が多く、且つ電流制御によりモータ内の磁路も変化するため、従来の磁気回路法の適用が困難です。ある程度の制約を設ける事で磁気回路法を使用する事も可能ではありますが、設計の自由度に制約が課せられてしまいます。それに対し制約のないFEAでは今まで試したことがないロータデザインを自由に試すことができます。IPMの様な設計の自由度が大きなモータでは大まかなレイアウトを決める初期設計段階でもFEAの活用は欠かせないといえます。

磁石レイアウトの検討

FEAの効果を手軽に体験できるツールJMAG-Expressを使って、に示すような極あたり3枚の磁石を三角形に配置したIPMを試してみます(図1)。この様な従来の設計経験が無い磁石配置をした場合、IPMの性格を決めるのに重要なdq軸インダクタンスはどのようになるのでしょうか?特性を算出した結果を示します(図2)。JMAG-ExpressはFEAを使ってはいますが、1秒以下でこれらの結果を導出することができます。この様にd軸インダクタンスLdは12.7mH、q軸インダクタンスLqは32.2mHと求まり、リラクタンストルクがどの程度期待できるのか、インバータの供給電圧の中でどのくらいの回転数まで回せそうかが瞬時に判明します。これ以外にも様々なレイアウトを気軽に試すことで、設計目的を達成するためにはどの様なレイアウトにすればよいのか指針を得ることができます。
この後JMAG-Designerを用いて磁石の角度や埋め込み深さ、フラックスバリアの形状などをパラメータスタディし、設計の最適化を行うという流れになります。

図1 三角形磁石配置モータ

図2 三角形磁石配置モータの特性

誘導電動機の初期設計

誘導電動機は以前から幅広い分野で使われているモータですが、効率規制の導入や、レアアースの価格高騰に対する永久磁石モータの代替モータとして改めて注目されています。ここでは、誘導電動機の初期設計でFEAがどのように活用できるか見ていきます。

誘導電動機のT型等価回路

誘導電動機の初期設計ではT型等価回路を使ってすべりに対するトルクや電流の特性算定することがしばしば行われます(図3)。T型等価回路で用いる漏れリアクタンスや2次抵抗など(以下機器定数)は誘導電動機の特性を決める上で重要なパラメータで、設計ではロータ拘束時や無負荷回転時の機器定数を磁気回路法やかごの形状から見積もります。
深溝かごを持つ誘導電動機に対して、ロータ拘束時と無負荷回転時の機器定数を求め、T型回路よりすべり-トルク特性を求めた結果確認します(図4)。後にFEAで詳細解析を実施した結果を示していますが、T型回路による算定では最大トルクを60%近く過大評価し、最大トルクとなるすべりも異なっていることがわかります(図5)。なぜこの様な結果になったのでしょうか。

図3 誘導電動機のT型等価回路

図4 深溝型誘導電動機

図5 すべり特性の比較1

FEAによる機器定数の導出

原因を考察するために、すべり1(すなわち拘束時)とすべり0.5でのバーの電流分布を確認します(図6)。両者はコンターレンジを同一にしています。すべり0.5では電流がバー内部まで浸透し比較的均一な分布になっているのに対し、すべり1ではスロット開口部付近に偏っていることが分かります。この現象はすべりによってロータに鎖交する磁束の周波数が変わるために起こります。電流が分布を持つか均一かによって二次抵抗が大きく異なりますので(電流が偏るほど二次抵抗は大きくなる)、図5で特性が合わなかった理由は「拘束時に求めた二次抵抗を他のすべりで用いたため」と推測できます。また電流分布が変わることで漏れ磁束が影響を受けることこのコンター図から予想できます。

(a)すべり1

(b)すべり0.5

図6 バーの電流分布

この様にFEAを詳細解析で用いればバーの電流分布を考慮したすべり特性を求めることができますが、一方で計算時間がかかります。そこで、機器定数の導出にFEAを活用することを考えます。先の例に示したようにすべり0.5とすべり1においてFEAで機器定数を導出し、T型回路計算に用いてみます(他のすべりでは線形補間および外挿して機器定数を求めます)。結果得られるすべり-トルク特性を確認します(図7)。図5と比較して大幅に精度改善していることが分かります。FEAによる詳細解析は確かに計算時間がかかりますが、今回紹介したFEAで機器定数を導出するための計算時間は数分で済みます。

図7 すべり特性の比較2

ここでは、初期設計段階でもFEAを活用することで誘導電動機の特性が高精度に予測可能であることを紹介しました。今回のモデルではバーの形状は単純でしたが、これまで設計したことのない複雑なバーの形状の場合には知見がなく機器定数の見積もりが困難なため、FEAによる機器定数の見積もりが更に有効に働きます。

おわりに

“モータ設計にFEAは有効か?”の第1回目では初期設計段階でのFEAの活用事例を紹介しました。
  • 埋込磁石型永久磁石同期モータは設計の自由度が大きく、設計の自由度に制約が課せられないFEAの活用が欠かせません。
  • 誘導電動機の初期設計段階では等価回路による特性算定が行われますが、FEAを用いて電流分布を考慮して機器定数を見積もることで特性算定の精度を大幅に改善することができます。

(成田 一行)

[JMAG Newsletter 2013年1月号より]

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