第1回 LMSの技術者に聞く電気機器の振動・騒音対策におけるモデルベース開発の活用

モデルベース開発はどこまで浸透しているのか CAE編

昨年の連載ではモデルベース開発の考え方について整理しましたが、今年は実際にモデルベース開発を行っている現場についてレポートしたいと考えています。JMAGと共にモデルベース開発をサポートするベンダーへのインタビューを通して、制御やメカの開発に関わる技術者がどのようなことを考え、我々電気系の技術者に何を期待しているのかを明らかにしていきます。それにより、我々が為すべきことを知ることができるのではないかと考えています。
昨年度から芝浦工業大学-LMSジャパン-JSOLの三者で、永久磁石電動機の振動騒音解析を行っておりますが、その途中経過をJMAGユーザー会セミナーで中間報告を行った際、たくさんの方にお越しいただき、皆さんがこの問題に関心を持っていただいていることを強く認識いたしました。今回は共同研究パートナーであるLMSジャパンの浅野様、井戸様に、振動・騒音対策のプロの技術者からみた、電気機器におけるモデルベース開発の活用というテーマでお話を伺いましたので報告します。

振動騒音低減の重要性

振動騒音低減の重要性が増す背景

電気機器の開発課題において振動騒音(NV;Noise Vibration)の重要性は高まっています。機器の小型化や高密度化が進むことで、モータやアクチュエータ自体が振動しやすくなり、制音材の使用も抑えられため、NVの問題が顕在化しやすくなっています。また、室内など機器の使用環境の静音化が進み、機器の騒音低減要求も高まっています。したがって、モータなどの電気機器を設計する技術者は出力や効率などの基本性能を満たすことは当然として、NVの面でも要求を満たすことが求められています。振動騒音の低減が求められているのは、電気機器の世界だけではありません。NVが大きくていいという物は世の中に殆どないと言っていいかもしれません。
そこで、今回はNV問題の測定・解析のスペシャリストであるLMSジャパンの技術者の方に、NV技術者がどのようなアプローチで問題解決に取り組んでいるのかを伺いました。電気機器の技術者がこれから取り組むであろうNV対策の進め方の参考になるようなお話を伺うことが出来ましたので、ご紹介したいと思います。

取材協力


エルエムエスジャパン株式会社 Pre-sales Simulation 3D 担当 リーダー 浅野 俊二氏、井戸 浩登氏

振動騒音シミュレーションの難しさ

振動解析は共振に注目する

(JSOL) 電気回路での共振や減衰はピンと来るのですが、物理的な振動や騒音は身近な割にはキチンと考える機会がなかったので、発生原理やどう対策すべきかイメージできません。まずは振動騒音シミュレーションの難しさについて教えてください。

(LMS) 応力や歪、変形などの物理量で評価する(構造)静解析とは異なり、振動や音など扱う動解析では、評価位置、周波数、時刻によって変化する指標を同時に評価する必要があるため、設計変更や対策に対するアプローチが独特です。静解析では量の大小が指針となりますが、動解析では共振にフォーカスしていくことが特徴です。
見かけ上の指標の変化に惑わされず、現象の本質を掴むための解析アプローチが必要になります。何が支配的で、設計者が制御できるのはどこなのか?…を明確にする必要があります。解析を精度よく&効率的に進めるには、目に見えない境界条件や荷重条件を、どのように数理モデルに落とし込むか…という点において、正しい知識と経験が求められます。

(JSOL) 振動測定ではどのような難しさがあるのでしょうか。

(LMS) 実験解析では、現象をあるがままに測定するのではなく、本質量を浮き彫りにさせる工夫が必要になります。徹底したノイズの除去、センサーを取り付けられない部分での計測の工夫、正しい知識に基づいた波形信号の処理…など、実務では経験と知識に裏打ちされたノウハウが求められます。
測定モデルから、普遍的な対策や知見を見出すためには、理論と実験の両方が必要になります(図1、図2)。

図1 晴海1号機の実稼動振動騒音試験

図2 LMSTest.Lab画面

振動も予想できる

(JSOL) ある程度経験を積んだモータ設計者は、磁気回路形状を見れば、磁束の流れをイメージできて、設計の良し悪しをおおよそ判断できますが、振動の技術者は構造を見ただけで、どこが振動しそうとか音が出そうとか分かりますか。医者が触診するように手で叩いたりすると、音がでるところを見極められるものなのでしょうか?

(LMS) 実物があれば、その重量感(手に持った感じ)、剛性(手で叩いた時の音や響き)を体感し、モデル化の(感覚的な)チェック指標とすることはあります。経験者であれば、支配的な周波数帯域やモードシェイプも言い当てることができるでしょう。こういう感性は、シミュレーションのモデルを作成する人にとっても重要です。

固有周波数とモードシェイプに注目

(JSOL) 振動騒音の技術者は、測定値や解析値のどのようなところに着目しているのですか?

(LMS) 振動・騒音で問題となるのは基本的には共振です。有害な振動を取り除くということは、共振を防ぐことになります。振動は構造に対して生じる加振力と構造自身の振動しやすさで決まるわけですから、構造側では、共振周波数とモードシェイプを見てどのような振動をしているのかを念入りにチェックします。
一方、振動の振幅についてはあまり重視しません。数式的にも共振周波数近傍では1(Hz)ずれただけで応答レベルは数10~数100倍変わります。また振幅にはモーダル減衰も寄与しますが、減衰自体が振動においては本質ではありませんから、振動レベルにとらわれすぎないようにする必要があります。
煎じ詰めると、振動は剛性と慣性の運動方程式に則ったエネルギーのやり取りですから、実験、解析に関わらず、構造の振動モードである固有周波数とモードシェイプを求めることが重要で、それに対して設計者は対策を打つことになります。

LMS社と振動騒音ソリューション

LMS社の歴史

(JSOL) LMS社について簡単に紹介してください。

(LMS) 1979年、ベルギー王国ルーベン市にて設立されました。振動/騒音現象にかかわる、実験系からのエンジニアリングを目的として実験計測・データ解析システムの開発/販売からスタートしました。現在は、実験解析システムを含め、シミュレーションツールの開発/販売を含むトータル・ソリューションを提供しています。製品としては、実験解析システム(ハードウェア、ソフトウェア、各種計測機器)、3Dシミュレーションソフトウェア(Virtual.Lab / Samtec)、1Dマルチ・ドメイン・システム・シミュレーションソフトウェア(Imagine.Lab AMESim)となります。
エルエムエスジャパンは、日本のユーザーに対するコンサルティングからサポートまで行なう日本法人で、総勢50名の技術者を要しています。

LMS Test.LabとVirtual.Lab

(JSOL) Virtual.Labはどのような分野で使われているのでしょうか。

(LMS) LMSの製品は海外、国内の機械設計全般(機械、電機、自動車、航空、宇宙、軍事、デバイス開発)及び、音、振動、構造に関する研究開発分野で利用されています。実機の測定・分析の実験的なデータを基にした解析ツールがTest.Labで、仮想3DシミュレーションツールがVirtual.Labになります。

(JSOL) Virtual.Labの特徴はどこになるのでしょうか。通常の構造解析ソフトと何が違うのでしょうか。

(LMS) 機構解析、振動騒音解析、音響解析、疲労寿命予測、相関解析および最適化機能が1つのプラットフォーム上でシームレスに実現しています。
物体の運動から生じる荷重を同定し、同定された荷重による構造の振動応答を計算し、その振動から生じる音を予測する…といった一連の設計プロセスを、ひとつのプラットフォーム上で実現可能です。また、CAD(CATIA V5)ジオメトリから直接解析できるのも魅力の1つです。(個々の解析ツールを単独で使用することも可能。)
また、LMS社自体が、エンジニアリング分野における実験的なコンサルタントを主務として成長してきた会社なので、実験とCAEシミュレーションを融合したハイブリッド・ソルーションを提供できるのも強みです。

(JSOL) Virtual.Labの構成や利用できる環境を教えてください。

(LMS) 機械動作の高速&高精度化、あるいは省資源・軽量化に伴う「振動と音」は、メカ設計においては永遠の課題です。LMSは、創立以来、30年以上にわたって振動騒音の分野で実績を積み上げてきており、それに必要な実験的なハード・ソフトウェアおよび、3DCAEソフトウェア開発&販売を手掛けてきた。NVの解析分野では、もはやデファクト・スタンダードの1つと言っても良いと考えています。音響シミュレーションモジュールであるVirtual.Lab Acousticsは、前身のSYSNOISEを含めおよそ四半世紀にわたる開発の成果であり、国内のみならず、全世界のリーディングカンパニーに利用していただいています。
目的や解析のグレードによって選択するモジュール構成が異なるので、一概に御紹介できませんが、音響解析に特化した場合、基礎的なモジュールは400~500万円前後から揃えることができます(図3)。

図3 LMSVirtual.Lab画面

振動騒音対策におけるモデルベース開発

全ての物理現象を同時に解くことは非現実的

(JSOL) 振動騒音の改善においてもモデルベース開発の考え方は適用されていると思いますが、具体的にはどのように実施されているのでしょうか。

(LMS) 振動に関わる全ての部品についての物理現象をモデル化して、同時に解くことは非現実的です。したがって、現実的に解くことが出来る形にある程度物理現象を切り分けて考えていきます。JMAGユーザーに馴染みのあるモータであれば、構造変形による振動と、トルクによって生じる振動を分けて考えます。構造変形は構造全体に働く力の分布が重要になるので、FEMで電磁力の分布を求める必要があります。トルクによる軸ねじり振動や歯車の噛み合い音の場合、トルクの時間変化は重要ですが、電磁力の分布自体は寄与しません。したがって、トルクの時間変化だけを使ってシミュレーションすることが出来ます。

(JSOL) モータを構造変形に関わるモデルと軸振動に関わるモデルに分けて、他のモデルと接続しやすくするわけですね。

(LMS) 軸振動の場合、モータの発生するトルク変動と自身の慣性モーメントがあるわけですが、そこから負荷に行き着くまでに歯車やダンパーなどを介することになります。これらの動きを考えるには機構解析ツールを使うのが適しているわけで、機構解析ツールが受け取りやすい形で、軸のねじり剛性や歯車の接触状態を引き渡してあげることになります。そこで得られた振動を構造モデルに再度取り込んで、振動や騒音を評価することになります。

実験データと解析データを同じ土俵で取り扱う

(JSOL) シミュレーションにより、試作レス・試験レスは実現できるのでしょうか。

(LMS) 減衰や吸音特性などは、その値を理論的に求めることはできず、毎回のように現象を数理モデルに落とし込むための実験が必須となります。また、連続体力学に基づいたマクロなモデル化をベースとしている数値シミュレーションでは、限定された条件下でしか解を保証できません。
昨今では、実験の方がコスト(時間、お金)で優位である場合も多いので、解析を単なる実験の代替アプローチとは考えず、どのような付加価値をつけるか…が重要となります。
実験を効率的に行ない、製品開発を助けるのが、Virtual.LabをはじめとするLMSの製品やサービスのポリシーです。LMSでは実験データと解析データを同じ土俵で取り扱う。どちらが優位とかは無く、同列に扱い分析に生かしていくべきと考えています。

電気機器の振動騒音対策のニーズは高まっている

(JSOL) 電気機器の振動騒音対策への興味は高まっていると思われますが、LMS社にもそのようなニーズは寄せられているのでしょうか?

(LMS) 実際、モータの振動騒音対策のためにLMSのツールを御検討されているお客様は増えています。昨年のLMSのユーザーカンファレンスでは、電気機器の振動・騒音対策に解析ツールを使って設計効率を高めたという講演がありました。磁界解析にはJMAGを使ってらっしゃいました。

JMAGに期待するもの

(JSOL) JMAGと連携するメリットは何でしょうか?他にも電磁界解析ソフトウェアはありますが?

(LMS) JMAGは国内での市場占有率&実績で No.1であること。日本国内のアプリケーション(解析事例)のレベルが、世界的な視野で見ても高いこと。
JMAGというソフトウェアが海外のユーザーでも、導入&利用できること。JSOLのソフトウェアの開発力&カスタマーへのサポート力が高いこと。…などが選定の理由です。
また、JMAGは他のソフトウェアとの連携に積極的であることが大きいと考えています。現在、LMSのベルギー本社とJSOLの間でダイレクトインターフェースを開発するなど、ユーザーにメリットのある開発に前向きな姿勢には共通するものがあると思っています。JMAGとであれば、世界中のユーザーに、よい技術サービスを提供できると思っています。

(JSOL) 電動機の振動騒音に関する解析技術の向上のために、芝浦工業大学を含めた三者で共同研究させていただいておりますが、そのような協力関係を結べる友好関係は、製品やサービスに反映されると思っていますので、我々も大事にさせていただきたいと思っています。最後にJMAGに期待するものをお聞かせください。

(LMS) 電磁場設計そのものが製品の音響品質をも左右する…そういう時期に来ていると思います。従来の機械設計屋さんでは対処できない対策アプローチも見つかるのでは?…という期待もあります。製品の静音化・快音化への取り組みに、メカとエレキの技術者が知恵を出し合って解決できれば…と思っています。
電気機器の加振力である電磁力を高精度に求めることは基本中の基本になりますので、JMAGにはこの点は常に期待しています。その上で、我々を含めたユーザーが扱いやすい形で引き渡してもらえれば、モデルベース開発を通じて情報共有は進んでいくと思われます。とにかく正確な電磁力を引き渡してくれれば、そこから先は任せてください。

(JSOL) 今日は色々と有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

まとめ

今回は、振動騒音のスペシャリストであるLMSの技術者の方から、振動・騒音の技術者ならではのお話を伺うことが出来、電気系の技術者の端くれとしては非常に刺激を受けることが出来ました。会話により意思を伝えたり、振動や騒音から機器の調子を推し量ったりするなど、音や振動とは切っても切れない生活を送っている割には、その原理をキチンと考えることが無かったことを自覚しましたが、これを機に振動や音が少し目に見えるようになった気がします。この経験をJMAGの機能開発や技術サービスに生かし、ユーザーの皆様の研究開発に少しでも貢献できるようにしたいと考えています。

(坂下 善行)



LMS連絡先
本社:http://www.lmsintl.com/
日本法人:http://www.lmsjapan.com/

[JMAG Newsletter 2012年4月号より]

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