JMAG-Expressによるモータ設計
モータ設計ツールであるJMAG-Expressに便利な機能が着々と追加されております。本稿ではPMモータを例にして、JMAG-Expressの特徴的な機能を活用したモータ設計事例を紹介します。モータ設計業務の効率化に是非ともJMAG-Expressを活用していただきたいと思います。
JMAG-Expressとは
JMAG-Expressとは、概念設計から基本設計、詳細設計までの検討を網羅したモータ設計ツールです。JMAG-Expressには、基本特性を1秒で計算するクイックモードと、磁束密度や損失密度等の分布量やコギングトルクや誘起電圧等の時系列結果が評価できるパワーモードの2つのモードを用意しております。JMAG-Expressを活用したモータ設計のフローを示します(図1)。概念設計や初期設計時に、モータの大まかなレイアウトを決める段階ではクイックモードを利用し、設計パラメータを最適化し、詳細設計案を固める段階ではパワーモードを利用します。本稿では、JMAG-Express PublicとJMAG-Express パワーモードを用いて説明いたします。JMAG-Express Public とは、JMAG-Expressクイックモードと同様に、基本特性を1秒で計算する無償版の設計ツールです。
図1 JMAG-Expressを活用した設計フロー
JMAG-Express Publicによるモータ設計
PMモータを例にJMAG-Express Publicを利用したモータ設計の方法を紹介します。本稿で設計するモータの要求仕様を示します(表1)。JMAG-Express Publicを利用したモータ設計フローを示します(図2)。
表1 要求仕様
図2 JMAG-Express Publicを利用した設計フロー
要求仕様からモータ体格を瞬時に決定
モータの要求仕様からモータの体格を決定するためには、モータ設計の知識や経験が必要で、大変手間がかかります。JMAG-Express Publicにはサイジングという機能があり、モータの目標定格出力等の要求仕様を設定するのみで、モータ体格を瞬時に決めることができます。
それではJMAG-Express Publicのサイジング機能を用いてモータ体格を決めてみます。まず、使用する形状テンプレートを決定します。200種類以上のテンプレートからロータとステータの組み合わせを自由に選択、変更できます(図3)。万が一、お望みの形状が見つからない場合は、新たにテンプレートを作成することも可能です。ここでは磁石がかまぼこ型のSPMモータを選択します。サイジング機能では目標定格出力情報から、モータ体格を決めます(図4)。スロット数や形状寸法だけでなく、材料等のパラメータも自動で調整します。
図3 モータ形状タイプの選択
図4 サイジング機能の設定例
巻線の検討
モータ体格が決まりコイルスペースが決まりましたので、巻線占積率を確認します。絶縁紙等の占める面積もありますので、コイルスペース100%を電流通電領域とは使用できません。通常であれば、コイルスペースや占積率は寸法や素線径から自分で計算しなければなりません。JMAG-Express Publicでは、素線径や絶縁紙の情報から自動的に占積率を算出します(図5)。また、巻線方法によって変わる抵抗値も自動で計算します。
ここでは、素線を丸線とし、巻線占積率を約50%に調整し、モータの特性を確認します(図6)。これでは、回転数4000(RPM)付近で目標トルク2.5(Nm)に達していないことが確認できます。
図5 巻線設定画面
図6 トルク結果(初期設計案)
モータ特性が要求を満たしているかの確認
図6で確認した通り、低回転域ではトルクが3(Nm)以上でており問題ありませんが、4000(RPM)付近では要求の最大トルク2.5(Nm)を満たしておりません。まずはこの点から解消していきたいと思います。回転数が上がるに従って、逆起電圧が大きくなっていることが原因だと考えられます。磁石が強すぎるのかもしれませんので、磁石の形状を変更して、磁石磁束を下げてみたいと思います。今回は磁石幅を小さくしてみます(図7)。瞬時に全回転数域での特性を確認できますので、磁石幅を変更しながら適切な値を決定します。今回の磁石幅の変更を改善案1とし、初期設計案と比較します。JMAG-Expressでは複数の設計案を一つのグラフに表示でき、簡単に比較できます(図8、図9)。4000(RPM) でもトルク2.5(Nm)以上を確保できました。
図7 磁石幅の変更(改善案1)
図8 表示する設計案の選択画面
図9 トルクの比較(初期設計案と改善案1)
次にコイルの電流密度を確認します。自然対流で単芯の場合、電流密度は1.0×107(A/m2)以下に抑える必要があります。JMAG-Express Publicでは、トルクや出力だけでなく、各部の磁束密度やコイル内の電流密度も確認することができます(図10)。コイル内電流密度が1.4×107(A/m2)と少し高めであることが確認できます。径の大きい素線に変更し電流密度を下げるために、スロット面積を広げたいと思います。JMAG-Express Publicでは、トルクに大きく影響するギャップ長を固定しながら、形状寸法を自由に変更できます。ここでは、ギャップ長を維持しながら、0.66(T)と比較的磁束密度に余裕があるバックヨークを小さくすることでスロット面積を広げます(図11)。スロット面積が大きくなったことで、同じ巻数でも素線径を大きくすることができ、素線の電流密度を下げることができました(図12)。最高トルク2.5(Nm)だけでなく、出力1.0(kW)も達成することができました(図13)。
図10 改善案1の計算結果
図11 スロット面積の変更(改善案2)
図12 改善案2の計算結果
図13 改善案2の特性結果
JMAG-Express パワーモードによる高精度化
JMAG-Express Publicの検討結果を受けて、詳細検討をJMAG-Expressパワーモードで進めます。JMAG-Expressパワーモードを利用したモータ設計フローを示します(図14)。
JMAG-Express Publicでは磁束密度やトルクの平均値で検討しておりましたが、JMAG-Expressパワーモードでは磁束密度や損失密度の分布、トルクや誘起電圧の時系列結果で検討できます(図15)。磁束密度分布や磁束線の情報から、磁気飽和しているかの確認等、電磁鋼板を有効に活用できているか確認できます。また、トルク波形から、騒音の原因となるトルクの脈動(コギングトルク)を下げるための形状変更も検討できます。このように、JMAG-Expressパワーモードを利用することで、磁気回路を効率良く構成するモータを設計することができます。
図14 JMAG-Express パワーモードを利用した設計フロー
図15 JMAG-Express パワーモードで得られる結果例
(左:磁束密度分布と磁束線、右:コギングトルク)
効率マップを活用したモータ設計
通常では効率マップを求めるのに手間がかかりますが、JMAG-Express パワーモードを利用すると簡単に求まります。ここではJMAG-Express パワーモードを利用して、駆動域全体の効率マップを確認します。効率マップを評価する場合、評価項目に「基本特性」を選択し、計算対象の「効率」にチェックを入れます(図16)。あとは解析実行するのみで、電磁界有限要素解析を用いた詳細計算で得られた効率マップが得られます(図17)。出力1kWを満たす回転数4000RPMで、効率90%を満たしていることが確認できました。
効率マップとともに、銅損や鉄損のマップも確認できます。高負荷領域では銅損が大きくなり、高回転領域では鉄損が大きくなっている等も確認でき、なぜそのような効率マップになったのかの原因も確認することができます。パワーモードを活用することで、最適な設計パラメータを見つけることができます。
図16 JMAG-Express パワーモードの設定
図17 効率マップ
JMAG-Express Publicからモータ設計を始めよう
JMAG-Expressを利用することで、モータの概念設計から詳細設計までの検討ができることはご理解いただけたかと思います。また、JMAG-Express Public単体でもモータ設計を検討できることはご理解いただけたかと思います。JMAG-Expressを体感いただくために、無償版のJMAG-Express Publicからモータ設計を始めていただきたいと思います。
JMAG-Express Publicは簡単に入手できますので、以下の方法でソフトウェアとライセンスを取得して下さい。
- ダウンロード
JMAG-Express PublicのWEBページにアクセスして、JMAG-Express Publicをダウンロード。 - ライセンスキーの取得
同じくJMAG-Express Publicのページからライセンスキーの申し込み。 - インストールとライセンスキーの設定
JMAG-Express Publicをインストールし、送られてきたライセンスキーを入力。
最後に
JMAG-Expressを是非ともモータ設計に活用していただきたいと思います。紹介しましたJMAG-Express Publicは、無償ですので、どなたでもお使いいただけるモータ設計ツールです。JMAG-Express Publicの次のバージョンでは、パラメトリック機能が搭載されます。こちらの機能も是非ともお試しください。
JMAG-Express パワーモードも是非お試しください。なお、JMAG-Express パワーモードは有償ライセンスが必要です。
(服部 哲弥)
[JMAG Newsletter 2014年3月号より]