モータ開発
近年、電気機器の振動騒音が避けられない問題になっていますが、磁気回路設計者にとって、振動騒音解析はまだまだ縁遠い存在かと思います。本シリーズでは、JMAGで得られた電磁力を起振力とした振動騒音解析への取り組み方を紹介します。第1回目である本稿では、モータに着目し、電磁力と固有振動による共振を解析で捉えるためのモデリング方法について紹介します。電磁振動に取り組んでいないモータ設計者の方に少しでも、振動騒音解析に取り組んでいただきたい、もしくは機械設計者と連携して振動騒音対策を進めていただきたいと思います。
はじめに
モータに対する小型化や高密度化の要求が高まるにつれて、振動や騒音が増大する傾向にあります。特に、電磁力を起振力とする電磁振動およびそれに伴う騒音が問題視されており、低振動化、低騒音化への要求が高まっています。そこで、シミュレーションを利用することにより、振動騒音の原因究明、振動騒音の予測や対策が求められてきています。
今回はJMAGを用いたモータの振動騒音解析への取り組みの中から、電磁力と固有振動との共振を捉えるモデリング方法について紹介します。電磁力計算においては、振動騒音を評価するためのモデリングと電磁力の評価方法を紹介します。また、固有値計算においては、電磁鋼板(ステータコア)、ロータ部、コイルのモデリング方法だけでなく、ステータコアとフレームやフレームとカバーの接触モデリングについても紹介します。JMAGの構造解析機能を用いてモデリング方法を紹介しますが、他ソフトウェアとの連携についても紹介します。
モータ仕様と前提条件
振動騒音解析のモデリング方法はモータ仕様によっても変わってくるため、最初に本稿で対象とするモータ形状と仕様を示します(図1、表1)。
前提条件について説明します。本稿では、耳障りな騒音として問題となる数kHz帯の騒音を対象とします。今回対象とする数kW程度のモータの場合、この数kHz帯にはステータコアの低次の固有振動が存在しています。一方、ロータコアの固有振動数は低次でも5kHz以上と高周波域に存在しています。また、今回はロータ偏心の影響を考慮しませんので、ロータに生じる電磁力はケースや上下のカバーの変形に与える影響が小さく、無視できます。よって、ステータコアに生じる電磁力と固有振動数の共振現象を捉えるモデリング方法について検討します。
図1 モータ形状
表1 モータ仕様
JMAGでの振動騒音解析
JMAGは電磁力を精度よく計算できる磁界解析機能だけではなく、構造解析機能も持っていますので、電気機器の振動騒音に関する全ての計算をJMAGのみで行うことができます。JMAG内で全ての計算を行えば電磁力の受け渡しもスムーズですし、操作方法も統一されますので、磁気回路設計者でも慣れない振動構造解析に取り組むのに大変便利です。振動騒音解析のフローを以下に示します(図2)。
図2 解析フロー
振動騒音解析のための電磁力計算
電磁力計算のモデリング
電磁力計算では、評価したい振動や騒音の周波数での電磁力を精度よく求められる磁界解析モデルを作成する必要があります。つまり、評価したい数kHzの周波数での電磁力変化を表現できる時間刻みとメッシュ分割になっているかが重要となります。一般的にモータ設計現場で評価されている誘起電圧波形やトルクを解析しているモデルでは不十分な場合があることに注意が必要です。
時間刻みについては、評価したい周波数1周期を最低限8分割することをお奨め致します。もちろん8分割よりも粗くすることも可能ですが、分割数を減らした場合と8分割の場合で電磁力を比較し、分割数の影響を確認しておくことをお奨めします。
メッシュ分割については、JMAGには形状を自動認識し、周期性や対称性を考慮してメッシュ生成する回転周期メッシュ機能があります。この機能を使用することで、品質の高いメッシュが生成され、精度よく電磁力を求めることができます。
電磁力モードの確認
JMAGでは、ステータのティース等に生じる電磁力の空間分布を把握するだけでなく、電磁力の時間高調波成分ごとの空間分布である電磁力モードを確認することができます。電磁力が大きくなるDC成分と極数とスロット数から決まる高調波成分を成分ごとに分離して確認します。例えば、4極24スロットのモータの場合、DC成分、極数とスロット数に起因する4次成分、12次成分、24次成分で電磁力のベクトルからモード数を確認します(図3)。電磁力モードと固有モードが同じになると大きな振動が生じますので、電磁力モードを確認することは、起振力を正確に把握する上で大変重要となります。
磁界解析結果
電磁力分布をFFT処理
電磁力(DC成分)
電磁力(4次成分)
電磁力(12次成分)
電磁力(24次成分)
図3 電磁力モードの確認
振動騒音解析のための固有値計算
固有値解析の進め方
固有値計算では、固有振動数と固有モードを求めます。モータは複数の部品から構成されていますが、まずは部品単体からモデリング方法を確定していきます。部品単体のモデリング方法が確定したら、部品を一つずつアセンブルして結合状態もモデル化していきます(図4)。部品をアセンブルするごとに、実測の固有振動数や固有モードと解析結果を比較し、逐次モデリング方法の妥当性を確認します。
図4 固有値解析の進め方
電磁鋼板のモデリング
部品単体で特に検討が必要な部品はステータコアです。ステータコアは電磁鋼板が積層されていますので、正直にモデル化すると膨大な要素数のモデルとなってしまいます。JMAGでは異方性材料特性が設定できますので、積厚方向の剛性を弱くすることで積層コアを均質化させた一つの塊としてモデル化することができます。積厚方向のヤング率を面内方向のヤング率の20~50%に設定することで異方性材料として電磁鋼板をモデル化できます。電磁鋼板を溶接して積み上げているか、接着コアを使用しているかによってもモデリング方法は変わってきます。コアの外周でのみ溶接している場合は、ヤング率を30%程度に小さくし、接着コアのように全面で固定されている場合には50%程度とします。
ロータ部のモデリング
ロータコア、磁石、シャフトから構成されるロータ部のモデリング方法について示します。ロータ部の固有振動数が今回の目的である振動騒音へ与える影響は小さいと考えられます。ただし、ロータの質量の影響はステータやステータ外側のフレームにも影響を与えます。そこで、ロータコアは質点でモデル化し、シャフトはビーム要素でモデル化して、モデル規模を小さくします(図5)。
図5 ロータ部のモデリング
コイルのモデリング
コイルのモデリング方法について示します。コイルのモデル化方法によって、ステータコアの変形にどの程度影響があるかを以下の3種類のモデルを作成し、調査した結果を参考のために示します(図6)。全てステータコア、フレーム、コイルで構成されております。
- コイルエンド部も含めて全て有限要素でモデル化
- コイルエンド部はモデル化せず、スロット内のコイルのみを有限要素でモデル化。コイルエンド部は質点でモデル化。
- コイルは有限要素でモデル化せず、全て質点でモデル化。
1)~3)モデルのコイルのトータル質量は全て同じに設定しています。フレームが楕円に変形する固有振動数で比較すると、1)2143Hz、2)2118Hz、3)2064Hzとほとんど変わりませんでした。コイルの質量を同じにしていれば、コイルのモデリングの方法の違いによるステータコアやフレームの変形への影響は小さいことがわかります。よって、コイルの質量を実機とあわせ、ステータコアの変形に影響がないように、質量分布を実機に即して配分したモデルにします。ここではコイルの変形状態も確認できる1)モデルのコイルエンドをリングで簡略化したモデルを使用します。
図6 コイルのモデリング方法の検討
1)から3)モデルで、コイルを有限要素でモデル化する領域が異なります。
有限要素でモデル化する領域が、1)では「全て」、2)では「スロット内のコイル部のみ」、
3)では「なし」となります。
ステータコアとフレームの接触モデリング
ステータコアとフレームの接触モデリングについて、示します。コアとフレームの接触モデリングの方法は、締めしろによっても変更する必要があるかと思いますし、バネでつなぐ等、方法もいろいろあるかと思います。今回のフレームは単純なリング状であり、均一に十分な面圧が与えられており、θ方向にずれないとして、ステータコアとフレーム間は節点共有としました(図7)。実測の固有振動数と比較して、部品の材料特性は調整していきます。ハメアイの影響でフレーム、ステータコア共に内部応力の影響で、ヤング率を少し増加させることになります。
図7 ステータコア+コイル+フレームモデル
フレームとカバーの接触モデリング
ねじで固定しているフレームとカバーの接触モデリングについて示します。フレームとカバー間では、ねじ部は完全に固定されているとして、ねじ部のみを節点共有でモデル化しました(図8)。ねじ部以外の接触面での摩擦の影響はとても小さいとして、拘束せずにフリーとします。
図8 フレームとカバーの接触モデリング
赤丸で囲まれたねじ部のみ節点共有で結合し、その他はフリーとします。
振動騒音解析
振動・騒音計算では、磁界解析で求めた電磁力と固有値計算で求めた固有モードを用いて、振動を計算し、指定した評価面での音圧を計算します。多くの永久磁石モータは、積層方向の磁束による電磁力は小さく、発生する磁界は回転方向に周期性がありますので、磁界解析は二次元の部分モデルで解析します。一方、振動解析モデルはフルモデルでモータ外周のフレームもモデル化している等、モデル化方法が大きく異なります。JMAGの構造解析機能の電磁力条件を利用することで、モデル化方法の異なる振動解析モデルに適切に電磁力がマッピングできます。
実測での表面の加速度特性の結果では、3000(Hz)弱に共振周波数が存在していることが確認できます(図9)。解析で確認できた共振周波数での固有モードを示します。カバーが約2700Hzでふれていることがわかります(図10)。このように、実機で加速度が大きくなっている周波数での固有モードが解析でも確認できました。これによって、解析を用いて機械的な振動対策案を検討できる事をご理解いただけたかと思います。
図9 周波数-回転数-加速度特性
図10 共振周波数での固有モード(2679Hz)
他ソフトウェアとの連携
ここまでJMAGの構造解析機能を使用した連携について紹介してきましたが、すでに他の構造解析ソフトウェアをご使用の場合JMAGで求めた電磁力解析結果をインポートして振動騒音解析を行うことができます。
ファイルへの電磁力分布の出力
Nastran、OptiStruct (Altair社)、ANSYS Mechanical(ANSYS社)等の構造解析ソフトウェアを使用している場合、JMAGの多目的ファイル出力ツールで電磁力分布をファイルに出力してください。このツールを使用することで、電磁力分布をNastranファイル形式やUniversalファイル形式、csvファイル形式で出力できます。
このツールでも、JMAGの構造解析と同様、二次元の部分モデルで得られた電磁力の結果を三次元のフルモデルに拡張した状態で出力することが可能です(図11)。JMAGから電磁力分布をNastranファイル形式で出力し、OptiStruct (Altair社)で振動解析を行った事例を示します(図12)。
図11 電磁力のマッピング
図12 OptiStruct (Altair社)での振動解析結果
LMS Virtual.Lab(LMS社)との連携
LMS Virtual.Lab(LMS社)を使用して振動騒音計算を行う場合、JMAG-Designerから電磁力を出力する専用のツールを用意しております。このツールでは、電磁力を時系列のまま出力しますので、LMS Virtual.Lab(LMS社)内で解析モデルにマッピングされます。そのため、構造モデル上で補強リブを追加するなど電磁力が発生しない箇所での形状を変更しても、再度JMAG-Designerに戻って、マッピングし直す必要はなく、便利になっております。LMS Virtual.Lab(LMS社)で行った音響解析の結果を示します(図13)。
図13 LMS Virtual.Lab(LMS社)での音響解析の結果
Abaqus(SIMULIA社)との連携
マッピングすることができます。
Abaqus(SIMULIA社)で計算した加速度分布の結果を示します(図14)。
図14 Abaqus(SIMULIA社)での加速度結果
最後に
今回はあくまでも一つの例にすぎませんが、モータの電磁力と固有振動数との共振現象を捉えるためのモデリング方法について紹介しました。起振力である電磁力での対策はもちろんですが、機械的な振動対策についてもJMAGを用いて検討していただきたいと思います。JMAGの構造解析機能は、磁界解析と同じ操作性で形状作成や条件設定ができます。磁界解析の延長で構造解析も検討する場合には、新しい操作を覚える必要もなく便利です。もちろんですが、構造解析を専門としているソフトウェアとの連携も可能ですし、今後も強化していく予定です。
現在、JMAGの磁界解析のみでの検討しか行っていない方は、是非とも構造解析にもチャレンジしていただきたいと思います。次回は、PWMキャリア周波数による高周波振動を評価するためのモデリング方法について掲載予定です。
(服部 哲弥)
[JMAG Newsletter 2014年1月号より]