パワートランス設計にJMAGを – 絶縁破壊を未然に防ぐ –

FEAが開発現場にもたらす効果とは何か?

有限要素解析(Finite Element Analysis : FEA)を電気機器設計現場に導入する価値についてご説明します。本号ではトランス、その中でも特に大型のパワートランス設計にFEAをどう活用できるかを考えます。目に見えない物理量を可視化し、設計の効率化を図りましょう。FEAは時間がかかるからとあきらめていた方、必見です。

トランス設計に高速、高精度なFEAを

トランスの歴史は古く、その起源は1880年代といわれています。大型のパワートランスをはじめとして、その設計には長年培われたノウハウが詰まっています。「FEAなんて無くても」と思われるベテラン設計者も少なくないのではないでしょうか。
確かに、従来の設計を続けていくのであればそのとおりです。しかしながら現在の設計現場では、昨今のエネルギー問題を受けて、機器の更なる省エネルギー化が求められています。場合によっては、1%の単位で機器効率向上を検討しなければなりません。
FEAを使用すると、目に見えない現象を可視化し、効率向上に必要な対策を打つことができます。例えば、トランスのコアに発生する鉄損や、漏れ磁束によって発生するケースの損失を、分布量として見積もることが可能です(図1、図2)。また、現在のFEAの技術を駆使すれば、精度の高い解析を短時間で実施することが可能です。
次節では、パワートランスの設計現場において課題となる断線時のサージ電圧、ならびに耐雷トランスの絶縁耐力評価について、JMAGの結果例を示します。

図1 パワートランス

図2 コアの鉄損密度分布とケースのジュール損失

パワートランス設計におけるJMAGの活用

パワートランス設計の重要な検討項目として、サージ対策が挙げられます。特に、経年劣化や雷によるコイル断線で、周辺機器に及ぼす影響を見積もっておくことは重要です。また、耐雷トランスでは、それ自身が雷による高電圧に耐えるため、コイルや絶縁材の配置が適切かを検討する必要があります。
ここではまず、JMAGを用いて三相パワートランスにおいてコイルが断線した場合のサージ電圧評価を行ってみましょう。次に、耐雷トランスにおいて、落雷時にコイル間での絶縁が保たれるかどうかを確認します。

コイルの断線によるサージ電圧評価

定常運転時の三相パワートランスにおいて、W相のコイルが破断した場合の異常電圧を推定します。破断を模擬するため、スイッチを用いてコイルに流れる電流を遮断します(図3)。
FEAを用いて得られたコイルの電圧履歴を見てみましょう(図4)。電源として400(V)の正弦波を用いていますが、破断した瞬間の電圧値から、約1240(V)以上の耐圧性が、周囲に接続する機器も含め、必要であることがわかりました。
この結果を得るためにJMAGが要した解析時間は、わずか4(分)です。従来の経験による設計において電卓をはじく感覚で、より高精度な結果を高速に得ることが可能となっています。

耐雷トランスの絶縁耐力評価

サージ電圧と並んで検討すべき設計項目として、トランス本体の耐雷性があります。特に耐雷トランスでは、それ自体が高電圧を受けても耐えられる設計でなければなりません。ここでは、絶縁油の中におかれたトランスに、雷による高電圧がかかった場合を想定します(図5、表1)。FEAを用いると、トランス内部の電界分布を見ることが可能です。それにより、コイルや絶縁材の配置、各部の絶縁耐力が十分かどうかを評価できるのです。
この例では、1次コイルに150(kV)の電圧がかかったと想定しています。内部の電界分布を見てみましょう(図6)。ここで、1次コイルの角部を拡大すると、この近傍で最大電界9.05(kV/mm)が発生しています。これは従来の経験に頼る設計を行っていては定量評価しづらい局所的な値ですが、FEAを使うことで明らかとなりました。結果として、本設計の想定絶縁耐力10(kV/mm)以下であることがわかります。

図3 三相パワートランスモデルと回路

図4 コイルの電圧履歴

図5 耐雷トランス

表1 各部の想定絶縁耐力

図6 トランス内部の電界分布

トランス解析で高速性を追求するJMAG

ここまで、トランス解析においては電流、電圧のほかにも、実測では見ることのできない損失分布、電界分布等が見られることをご紹介しました。JMAGでは、これらの結果を高速に得るための技術開発をしています。
前節でご紹介した「コイルの断線によるサージ電圧評価」で使用した時間周期補正法についてもう少し詳しくご紹介をしましょう。定常状態においてコイルが破断する、すなわち立ち上がりの現象を評価しない今回の例では、解析時間短縮のためにも過渡状態は短くしたいところです。JMAGでは時間周期補正法(TP-EEC法)を用いて、この過渡状態を早期に除去することが可能です。TP-EEC法の使用により、コイルの破断時刻を0.21(sec)に設定することができました(図7)。このような最新技術によって、従来のFEAよりも解析時間は従来の半分に削減されています。また、冒頭でご紹介したケースの損失解析では、渦電流の解析を高速に行うことができる改良型A-φ法(A-φ法2)や、マルチコアのマシンを有効に使用して解析速度を向上するSMP並列計算機能を用いて、解析の時間を大きく短縮しています。非線形反復を高速に収束させる技術もJMAGには入っています。

図7 U相コイルの電流履歴

まとめ

パワートランス設計で重要な評価項目である、コイル破断時の異常電圧評価を、JMAGを用いて行いました。解析初期の過渡現象を早期に除去する最新技術、TP-EEC法を用いることで解析時間を短縮し、破断時の電圧上昇を見積もることができました。
あわせて、耐雷トランスにおいて落雷時の絶縁耐力評価を行いました。結果として、ここで示した設計案では、150(kV)の落雷に耐えられることがわかりました。トランス内部の電界分布も確認することができるため、従来は困難であった細かなコイル、絶縁材の配置検討が可能となっています。
また、トランス解析において利用できるJMAGの高速化技術をご紹介しました。最新技術の導入により、従来のFEAよりも短時間で解析結果が得られます。
FEAは、現象の可視化により、ベテラン設計者の貴重なノウハウなどの技術を他の設計者や次の世代に伝えることもできるのです。
JMAGの最新技術を用いることで、従来の試作よりも簡単に、短時間で製品性能を推定することが可能になります。これを機会に、是非JMAGをトランス設計現場でもお使いいただければと思います。

(仙波 和樹)

[JMAG Newsletter 2012年4月号より]

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