第5回 次世代の電磁界解析セミナー ~モータの高精度損失解析の実務への展開~

今回で第5回となる次世代の電磁界解析セミナーを去る7月23日にトラストシティカンファレンス丸の内にて開催いたしました。テーマを“モータの高精度損失解析の実務への展開”と設定し、材料、測定、アプリケーション、そして解析技術に関して、それぞれの分野の第一人者を講師に招き、今後のモータ開発における損失解析への要求を示すとともに、現在開発されつつある最先端の損失解析技術・評価技術について解説していただきました。このセミナーを起点として、皆様の今後の損失解析の方向性を見出す場となったとすれば、喜ばしい限りです。

開催概要

主催: 株式会社JSOL
日時: 2013年7月23日(火)13:30~20:00 (懇親会含む)
場所: トラストシティカンファレンス・丸の内 (東京駅日本橋口直結)
参加者: 165名
URL: /jp/seminar/new_mag_5th/

開催レポート

開催趣旨

近年の日本を覆う環境問題、エネルギー問題は電気機器への省エネルギー要求をさらに厳しいものにしています。特に電力消費の半分以上を占めるといわれるモータの高効率化には継続的な改善が期待されています。このような状況で高効率であることは付加価値ではなく必須条件となりつつあります。
モータの高効率化のために、大型機での長年の努力は言うに及ばず、中小型機に関してもHEVやエアコンを中心に20年ほど前から精力的な研究開発が続けられてきました。その結果として、モータおよびそのドライブ技術は大きな進歩を遂げました。
この進歩の過程で、モータの設計開発にコンピュータを使った電磁界解析技術が取り込まれ、電磁界解析は先進的なモータ開発にはなくてはならない技術になりました。特に、損失評価や分析、損失を最小化させるための損失解析はモータの高効率化に大きく寄与しました。
ところが、ここに来て解析技術に新たな課題が見えてきました。モータが進化し、更なる損失の低減を要求されてきたため、解析に求められる精度は格段に高まり、これまでの解析技術だけでは不十分な場面が出てきました。そのため、新しい損失解析技術が望まれています。これに対し、解析技術研究の分野では材料測定と組み合わせた新しい方法が開発され有効性が確認されつつあります。
本セミナーでは、それぞれの分野の第一人者を講師に招き、今後のモータ開発において損失解析への要求を示すとともに、現在開発されつつある最先端の損失解析技術・評価技術について解説いただくことを目指しました。また、セミナーを起点として、参加者の方々と今後の方向性をディスカッションいたしました。

高精度損失解析に必要な四分野の技術

冒頭で述べましたようなエネルギー問題を受け、電気機器への高効率化要求が益々高まっています。一方で、高効率化つまりは低損失化の取り組みは今までも積極的になされてきており、コストを維持したまま損失を低減することは例え1%でも容易には成し得ない状況にあります。
この状況を打破するには何が必要なのでしょうか。ひとつは材料特性を活かし切ることだと考えました。言うは易く行うは難し。材料特性を活かし切るためには関連する四分野である、材料分野、測定分野、アプリケーション分野、解析分野の英知を結集する必要があること、その内の三分野は私たちでは力不足であることに気付きました。そこで、各分野を代表する講師の方々の御指導をいただきながら、最良の解析機能を開発し、皆さまに提供したいと考えました。
一つ目の分野は測定技術です。例えば電磁鋼板磁気特性のマイナーループを含めた挙動、温度依存性、周波数依存性、加工劣化による損失への影響を正しく把握することが必要です。これには精緻な測定装置、技術が必要です。この分野から同志社大学の藤原先生をお招きしました。
二つ目の分野はアプリケーション技術です。モータやトランスといった電気機器の特性を理解し、それに適した材料に適した加工を施し、適した場所に配置する必要があります。加えて、例えばモータがインバータで制御された事象についても理解する必要があります。この分野には、電気機器設計、制御の知識と経験が必要です。モータ開発の将来像を芝浦工業大学の赤津先生に描いていただきつつ、大型回転機分野から三菱電機の米谷様、中型回転機分野からはダイキン工業の山際様をお招きしました。
三つ目の分野は材料の開発技術です。材料を活かしきるような製品設計が追究された結果、より詳細な細部への設計要求が明確になりました。実現には、材料を正しく測定・解析する技術と、材料を開発する技術が必要です。材料の分野からJFEスチールの戸田様をお招きしました。
測定・アプリケーション・材料の三分野の橋渡し役となる四つ目の分野である解析技術の開発を、私たちJMAGが引き続き務めさせていただければ幸いです。

最後に

予想をはるかに上回る参加申し込みをいただきましたことから、本セミナーのテーマであった“モータの高精度損失解析の実務への展開”に対する関心の高さを再認識いたしました。また、講師の方々からも非常に興味深い御講演をいただきました。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。
当日にとらせていただきましたアンケートの結果から、90%以上の方が損失解析をモータ設計における優先課題と考えられており、98%の方が誤差10%以内の精度での損失評価を求めておられることが分かりました。一方で、自社で材料測定を行なえる状況にある方は21%でした。JMAGでは引き続き損失解析の精度向上に向け技術開発を進めると共に、お使いいただける材料データの整備も行なってまいります。
セミナー後には、ささやかな懇親会を行わせていただきました。セミナー中の講演から質・量ともに高い情報がインプットされ、それを爆発させたかのように、非常に熱のこもったディスカッションが行われておりました。また、沢山の方からJMAGに向けての激励のお言葉も頂戴いたしました。本セミナーの様子はイベント情報でもお伝えしています。

セミナープログラム

13:40 これからのモータ開発と望まれる解析技術:
芝浦工業大学 工学部 電気工学科 准教授 赤津 観 氏

2020年をターゲットとしたモータの開発動向とそれに伴う必要解析技術について述べる。背景には省エネ要求、レアメタル供給不安、新興国の台頭等によるモータ開発スピードの一層の高速化要求がある。一方で、開発対象は従来の永久磁石同期モータから多種多様なモータに移行しつつあり、かつ個別の解析内容も電磁界だけでなく応力、振動、熱、回路、制御等のmulti physicsの解析が当たり前となってきた。このような背景のもと、2020年までのモータ開発ロードマップをベースに今後必要となるモータ開発およびそのモータ開発を行うための解析技術に焦点をあて、現状技術を認識した上での次世代電磁界解析技術を述べる。

14:20 磁性材料の特性評価とモデリング技術の進展:
同志社大学 理工学部 電気工学科 教授 藤原 耕二 氏
15:00 大規模損失解析の課題:
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 電機システム技術部 米谷 晴之 氏

発電機の端部部材に発生する渦電流解析など、大型回転機における大規模損失解析の実例を示し、解析を行う上で必要となる解析システムの構築を示す。また、大規模解析を実用化するための問題点を示す。

16:00 PMモータにおける損失解析の実情と課題:
ダイキン工業株式会社 環境技術研究所 主席研究員 山際 昭雄 氏

電気学会で提案されているIPMSMモデル、およびNEDOのLi-EADプロジェクトで実施したPMASynRMにおいて、JMAGを用いた損失解析の結果と実測との比較を行い、現状の損失解析レベルを紹介する。また、今後、実用面で必要となる損失解析の課題についても紹介する。

16:40 無方向性電磁鋼板の開発・利用技術の最新動向:
JFEスチール株式会社 スチール研究所 電磁鋼板研究部 主任研究員 戸田 広朗 氏

近年、エネルギー効率利用の観点から、モータに対する高性能化・省エネルギー化の要求はますます厳しくなっており、鉄心材料である無方向性電磁鋼板にも更なる高性能化が求められている。本発表では、無方向性電磁鋼板の特徴と従来製品について述べた後、新規・高磁束密度材(JNPシリーズ)の磁気特性とそのモデル誘導モータへの適用・評価結果について報告する。
また、電磁鋼板は、コンプレッサー用モータなど、圧縮応力が付与された状態で使用される場合もあるが、圧縮応力下の鉄損は、無応力下に比べて大きく増加することが知られている。その鉄損劣化を抑制するには、電磁鋼板の磁歪低減が効果的であり、特に磁歪がゼロとなる6.5%Si鋼では圧縮応力付与による鉄損劣化が極めて小さいこと、また、鋼板表層のSi量が6.5%で、板厚方向にSi量分布を有するSi傾斜磁性材料でも圧縮応力下の鉄損劣化が非常に小さいことを述べる。

17:20 JMAGの取り組み:
株式会社JSOL 山田 隆

電気電子機器の小型化・高効率化を達成するには、電磁界解析による損失の高精度な推定が必須となっています。
弊社JSOLでは、JMAG 1stバージョンのリリース以来30年、様々な技術開発を行いお客様の声に対応してまいりました。
特にモータに対する損失解析については、その技術開発にどこよりも早く取りくみ、Steinmetzの経験式を基にした鉄損計算ツールの提供、鉄損の材料DBの搭載、応力依存性を考慮した磁界・損失解析機能の提供など、多くのユーザー様にこれら機能を使用していただいてきました。

また同時に、回路・制御を考慮した損失解析手法を提案、実機モデルとの検証を通じてその有用性を示すことで、ユーザー様に利用技術も提供してまいりました。

しかしながら、昨今の更なるモータの高性能化への要求に対しては、これまでの損失解析では不十分であり、いくつかの課題がクローズアップされるようになって来ました。例えば、ヒステリシスを考慮して鉄損計算精度を上げたい、上の鉄損ツールではエネルギー収支は保たれるのか?、誘導機のスキューを考慮するのは計算時間がかかりすぎてしまう、、、といった課題です。

現在JSOLでは、損失高精度計算のためのこれら課題に対する取り組みとして、ヒステリシス材料データベースの搭載、回転機における渦電流損失・ヒステリシス損失の高速計算機能の開発、ロータスキューを有する回転機の高速計算、などの技術開発を続けております。
本セミナーではこれら技術開発の一端ご紹介すると共に、損失高精度計算に対する開発ロードマップをお示しいたします。是非弊社の取り組みに対する皆様のご意見を頂戴したく思います。

18:00 懇親会

セミナーで得た密度の濃いインプットをもとに、損失解析をテーマとした技術交流が盛んに行われました。

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