第3回 複雑な物理現象を簡単に結びつけて開発効率の向上に寄与

解説:モデルベース開発

先回は、モデルベース開発に対するソリューションのひとつであるJMAG-RT の開発意図や得られる成果、JMAG-Designer10.5 で追加した機能をご紹介いたしました。
3回目の今回は、“モデルベース開発は複数の物理現象を効率的に関連付ける”と題し、モデルベース開発が包含する世界が制御回路との連成に留まらない、広い世界である事をご紹介したいと思います。
今回の解説をお読みいただくとモデルベース開発の考え方を再認識することになるかもしれません。

CAEによる連成解析の現状

CAE利用の現実

現在の研究開発において、CAEの活用は一般化しており、概念設計から詳細検討、製造工程の検討まで幅広い開発フェーズで使われている。しかし、物理現象の視点から考えると、CAEは物理現象ごとに設計の精度・速度を高めるためにのみ使われているという状況に留まっている。例えば、製品の構造面を評価したい技術者は、実機を振動試験機や曲げ試験機で測定するように構造CAEを行って設計の良否を評価している。同様に、モータの電磁力や損失を評価したい技術者は、モータベンチによる出力特性の測定やLCRメータによる計測をするように電磁界CAEを活用している。
ここで懸念されるのが、構造技術者と電磁界技術者が異なるモデルを評価する可能性があるということである。各技術者は、自分の担当範囲で行った改善策が、担当範囲外に対してどの様な影響があるのか、あるいは全体最適化がなされているのかを総合的に判断しなければいけない。しかし、異なるモデルを見ていると総合的な判断を見誤る恐れがある(図1参照)。

図1 実機と解析モデルの関係

例えば、1000(Hz)で共振が発生するモータの振動対策を行う場合、電磁界側の対策案と構造側の対策案があるが、どちらか片方で対策すべきか、両方同時に対策すべきかの判断は非常に難しい。個別に固有振動数を下げる対策を行った結果、電磁界、構造共に共振周波数が800(Hz)で再び合致したとしたら最悪である。シーケンシャルに検討作業を流せば、このような状況を回避することは可能であるが、CAEに期待されるコンカレント性が損なわれてしまう。従って、異なるモデルを同時並行で運用するためには、非常に注意深いマネジメントが必要なのである。
いまさら言うまでもないが、実際の製品や試作機は全ての物理的挙動を確認することが出来るので、CAEで問題となる、各分野の技術者が異なるモデルを見てしまうという危険性を回避出来る。構造的な対策を施せば、即時に磁気的な影響を確認できる。しかしながら、試作機を作るためには大きな時間とコストが必要となる厳しい現実に立ち戻ってしまう。

連成解析の実力は不十分

現状で市場に提供されている連成解析シミュレーションは、同じモデルを複数のテーマで関連付けて評価することが“理論的には”実現出来ている。しかし、現実に運用するためには、関連するモデルデータの物理量を適切に変換したり、連携するタイミングを整えたりという、細い針穴に太い糸を通すような注意深い作業が必要となり、それらは解析専任者の高い技術力と精神力によって実現している場合がほとんどである。
したがって、最前線の多くの技術者が通常の開発の全プロセスに渡って使いまわせるような平易な連成解析シミュレーションは、残念ながら存在していない。これが悲しい現実である。
逆に言うと、この問題を解決することが出来れば、CAEはさらに一段上がった開発効率の向上への貢献が可能になる。

モデルベース開発への対応が複数の物理系を効率的に結びつける

CAEが目指すべきもの

機械設計においてCADが果たしている役割をイメージしてみるといいかもしれない。CADの最大のメリットはコンピュータで簡単に線が引けることではなく、複数の設計者が情報を共有しながら同時に設計検討が進められるということである。これにより、多くの設計者が協調しながら、短時間で限られた空間に様々な機能を押し込んで、且つ優れた意匠を実現している。CADモデルには寸法や材質、設計ノウハウの情報が込められている。
この共有される情報に、物理挙動の情報を織り込んでいくのが、モデルベース開発の目指す方向性である。モデルベース開発は、開発に参加するモデルに情報の流通性を高めることを要求しており、関与する担当者間・部署間の垣根を取り払うことに貢献する。もちろん、モデルベース開発で使用されるモデルの理想像は、“実機の全ての特性を持ち合わせている”ということと“その特性を容易に取り出せる”ということである(図2参照)。
例えば、モータドライブシステムの開発を任務とする制御技術者は、トルク特性や応答性に関心を持ってモデルを利用し、制御ロジックや使用デバイスを設計評価していく。しかし、磁気飽和や温度分布は間接的な影響に留まるので、制御技術者には興味の外となる。そのモデルは熱システム設計者の元に渡ると、熱システムの検討に活用され、熱設計面から評価される。
それぞれが独立した制御用モデル、熱用モデルを用いると、違うものを見てしまうリスクがあるが、モデルが全ての特性を持ち、容易に情報を取り出すことが出来れば、情報の共有が容易となり、結果として開発効率の向上や製品品質の向上を実現することが出来る。

複数の解析を繋ぐためにユーザーの手を煩わせてはいけない

実は、複雑な物理現象の因果関係を解き明かすことは設計において最重要ではない。実際、実機は物体として実在した時点で、複雑な物理現象の因果関係が織り込まれている。与えられた入力に従って、物理的な因果関係に則り反応する。無機物である実機は自分の因果関係を知るよしもないし、評価者は因果関係を知っているほうが問題解決に貢献できるが、知らなくても良し悪しの評価は出来る。

図2 モデルベース開発導入による連成解析の枠組みの変化
(上:従来の連成解析、下:モデルベース開発環境での連成解析)

結局のところ、物理現象を複雑にしているのは多面性を表現できないCAEの力不足によるところが大きい。モデルベース開発が実機評価の代替になろうとするならば、ユーザーに因果関係を理解することを求めてはいけない。

現状の到達点

JMAGは高精度な磁界解析を高速に行うという基本性能を大事にしたうえで、その結果をモデルベース開発で汎用的に活用出来るように準備を整えることを目指している。ただし、一足飛びに理想に到達することは出来ないので、一歩一歩着実に歩を進めている。
我々が現状で実現すべきは、少なくとも機械設計者がJMAGの操作を覚えることなく、使い慣れた構造解析ソフトウェアで、JMAGで得られた磁界解析結果を使った構造解析を行えるようにするレベルであると考えている。同様に、JMAGユーザーが構造解析ソフトウェアの操作を覚えることなく、構造解析の結果を使い慣れたJMAG で用いた磁界解析を行えるようになることが出来るべきであるとも考えている。これらの点について、現状到達しているもの及び近々に実現するものについて紹介する。

Abaqus との連携

以前から紹介している通り、我々は非線形構造解析の分野で広く用いられているSIMULIA社製の構造解析ソフトウェアAbaqusとの連携能力を高めることに注力している。現状では、JMAGで得られた電磁力分布の結果ファイルをAbaqusで直接読み込み、電磁力を入力とした非線形構造解析を行うことができる。同様に、JMAGで得られた渦電流損失をAbaqusへ入力して、熱解析を行うことも可能となっている。他方、Abaqusで得られた応力分布ファイルをJMAGに直接読み込んで、応力磁化特性を考慮した磁界解析を行うことも可能となっている。これらにより、構造解析担当者は電磁界担当者が行った解析結果を容易に活用することが可能となり、当然その逆も可能となるので、情報の共有性が高まっている。
また、Abaqusが得意としているモデル変形を伴う現象でも連携性を確保する機能を開発している。電磁成形のような形状変化を伴う複雑な物理現象を評価出来るようになる予定である。

LMS Virtual.Labとの連携

振動騒音解析のソリューションを提供しているLMS社のVirtual.Labとの連携機能も強化する予定である。現状はNastran形式でのデータ出力に留まっているが、JMAGで得られた電磁力分布の結果ファイルをVirtual.Lab で直接読み込み、電磁力を入力とした振動騒音解析を行うことができるようになる予定である。
電気機器の開発において、振動騒音の低減に対する要求は高まってきており、我々にはこの分野のソリューションを提供する義務があると考えている。

まとめ

JMAGは電磁界解析に関する基礎能力の強化を図るのは当然として、その結果を他の強力なシミュレーションソフトウェアで容易に活用出来るように連携を強めることでモデルベース開発に貢献していきたいと考えている。それを具現化するのは、開発コンセプトで示している“OPEN”そのものである。

今後の夢、Virtual Test Benchのコンセプト

我々はVirtual Test Bench(以下、VTB)を次期バージョンでリリースする予定である。VTBは2つの役割を持っている。
まず、モデルに物理的な因果関係を簡単に付与する機能である。電磁界的な特性は勿論、温度依存性、応力依存性などとの物理的な因果関係を設定することである。
もうひとつの役割は、電磁界特性を簡単に評価する機能である。JMAGのトレーニングやセミナーを受講しなくても、簡単な評価であれば構造設計者や熱設計者が簡単に行える環境を準備する。
最初は、電磁界解析担当者により、モデル化方針や評価フローを設計していただく必要はあるが、設定後はそれを電磁界解析担当者以外でも簡単に活用できることを目指している。
これが実現出来れば、例えば構造設計者がステータコアの焼きバメの締め代を変更した場合に、モータの出力特性にどの様な影響が出るのかを確認しながらの構造設計が可能となる。電磁設計者ほどの精密な解析は実現できなくとも、機械設計者が施した設計変更による電磁界面の効果を“ほとんど”JMAGの操作を覚えることなく簡単に確認できるようになる。
これらは、モデルベース開発が掲げる複雑な物理現象を容易に解き明かすという目的に合致している。

[JMAG Newsletter 2011年秋号より]

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