[W-MA-195] プレイモデルによるヒステリシス損失推定における対称BHループのゆらぎの影響

目次
1. 概要
2. 測定
3. 対称BHループとプレイモデルにより得られるマイナーループの関係
4. 数値実験結果
5. まとめ
6. 参考文献

1. 概要

電気機器における損失の正確な予測は、その損失低減やより良い冷却システム検討のため、電気自動車(EV)のような高度なアプリケーションにおいて重要な課題となっている。近年、シミュレーションによる損失予測技術は改善されてきているが、積層鋼板のヒステリシス損失を高精度に推定することは依然として困難である。従来の方法はSteinmetzの経験式に基づいており、マイナーループを再現する能力を持っていない。一方で、マイナーループに起因する損失は先進的な機器設計では無視できないものであり、これに代わる方法が求められている。
プレイモデルは、任意のマイナーループを再現するための磁化モデルである。プレイモデルの利点は、材料測定で生成することが困難な、実稼働状態でのBH(磁束密度Bと磁場H)情報を必要とせず、静的状態で測定された対称BHループのみを必要とすることである。さらにこのモデルは、電磁界有限要素解析(FEA)を用いた渦電流計算で使用することができる。そのためプレイモデルは、正確な損失計算にしばしば利用されている。
プレイモデルの残された課題は、入力として用いられるBHループの準備である。その理由について述べる。マイナーループ表現の分解能は、その磁束密度の範囲におけるBHループの数、すなわちその分解能によって決まる。BHループの数が増えると、その間隔が狭くなる。測定値の誤差は測定間隔に比べて十分に小さくする必要があり、マイナーループの測定精度に対する要求が高くなる。実際には測定品質には限界があり、理想的なBHループを得ることは不可能であるため、ループの測定によるある程度のゆらぎは受け入れる必要がある。したがって、ゆらぎがマイナーループの精度に与える影響を理解することが重要となる。
本書では、対称BHループのゆらぎが、結果として得られるマイナーループに与える影響メカニズムを明らかにし、ゆらぎに起因する誤差を見積もる。測定の詳細は次節で述べる。第3章では、典型的な運転条件におけるBHループとマイナーループの関係について述べる。第4章では、この関係に基づいて誤差を推定し、数値的に検証する。第5章で結論を述べる。

2. 測定

二種類の測定が行われる。一つ目は、プレイモデルの入力となる対称BHループである。ループは、磁束密度振幅0.05 Tから1.65 Tまで0.05 T刻みで測定される。二つ目は、直流重畳下でのマイナーループのヒステリシス損失である。直流重畳量Bdcは0.2 Tから1.4 Tの範囲で、マイナーループの振幅は0.2 Tに固定する。渦電流の影響を避けるため、測定はすべて準直流条件(0.05 Hz)で行う。
測定に使用するリングコアは、内径100 mm、外径120 mmの35A210鋼板20枚で構成される。コイルを巻くことによる応力の影響を防ぐため、コアはケースに挿入されている。磁界の強さは励磁電流法で測定する。図1に測定試料の写真を示す。励磁コイルは405ターン、磁束密度測定コイルは210ターンである。

図1 リング試料(35A210)図1 リング試料(35A210)

3. 対称BHループとプレイモデルにより得られるマイナーループの関係

対称BHループの交差は、測定誤差による典型的な症状である。特に対称ループ間の磁界Hの間隔が狭い領域でループが交差しやすい。図2に測定された35A210のBHループを示す。左は下降曲線、右はその拡大図である。磁束密度の振幅が大きいループが交差していることが分かる。

図2 対称BHループ(左:下降曲線、右:交差している領域の拡大図)図2 対称BHループ(左:下降曲線、右:交差している領域の拡大図)

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