株式会社明電舎

事業ドメインの拡大と強化を側面から促すJMAG

株式会社明電舎

各種の重電機器や産業向け電機システムなどを手がけ、創業113年を迎える株式会社明電舎。主な製品の技術的な基盤は、各種のモータに象徴される「回転するモノ」にある。高効率・高出力、そして精細な制御技術の確立と製品開発を支え、さらなる技術発展を促しているのがJSOLの電磁界解析ソフトウェア「JMAG」。環境問題への高度な対応が求められる新技術の開発においても、電磁界解析ソフトは主導的な役割を果たそうとしている。

同社執行役員・製品開発本部長の山田氏、シニアフェローの野村氏、製品開発企画部主管技師の渡辺氏、解析制御技術課長の松橋氏にJMAG導入の背景やメリットを聞いた。

貴社は、1897年(明治30年)の創業以来、発電・変電・配電などに関する電気機器の製造販売、また上下水道分野の各種の水処理装置と制御システム、さらに各種の生産設備機械用電気品とコンピュータシステムなど、社会インフラの充実に貢献されていますが、「明電舎らしい強み」とは?

山田氏:
当社の技術と製品のベースには、モータに象徴される「回ること」、つまり「回転機」があります。「回る」という現象は、シンプルなようであって実は大変奥の深い世界です。例えばモータが回り始めるときや減速するとき、あるいはモータに回される負荷の種類によっても、必要な力や回転速度、さらには制御の方法も異なってきます。

モータドライブシステムは通常、モータそのものと、電力を供給してモータの速度を制御するインバータの二つからなります。どちらが主で、どちらが従ということではなく、共に優れていなければ品質の良いシステムにはなりません。モータはインバータの制御に対して迅速かつ正確に反応できなくてはなりませんし、インバータはモータの速度や出力を正確に検出して出力を制御しなくてはなりません。

モータとインバータを別々に購入して組み合わせることは可能です。しかし、当社ではモータとインバータを一体のものとして開発することで、より高い性能を生み出し、お客様に信頼いただける製品を創出しています。

当社では、モータとインバータの開発技術者が一体となって開発にあたり、開発の各ステージで非常に詳細な検証を行います。その結果、モータとインバータを組合せて使用したときの問題を開発段階で解消することができます。お客様が実際に使用する状況を想定した検証を行うことで、お客様がスムーズにお使いいただける製品を提供できるのです。

明電舎のモータ明電舎のモータ

明電舎のインバータ明電舎のインバータ

単なるシミュレーションではなく創造性の喚起へ

JMAGを導入していただいたのは1990年代の後半ですが、導入に至った経緯はどのようなものでしょうか?

野村氏:
CAE(Computer Aided Engineering)導入の一つの進化、また到達点としてJMAGがあります。当社は、80年代半ばに「CAEセンター」を開設し、有限要素法(*1) を用いた解析ソフトによる設計支援が始まりました。この当時はまだ、電磁界解析は自作のプログラムと汎用ソフトを併用して、試行錯誤の中で行っていました。

私たちの業界では、PM(Permanent Magnet)モータ、つまり回転子(ロータ)に永久磁石を使用したタイプのモータの出現が大きな転換点でした。90年代に入ってPMモータの技術開発が本格化すると、3次元の電磁界解析が必要になってきました。例えばエレベーター用途では、トルクリプル (*2) は乗り心地に直結するので、正確にトルクを算定できるツールが不可欠です。またPMモータは磁石に生じる渦電流の問題がありますので、渦電流の経路を考慮できない2次元解析では限界があり、どうしても3次元形状を考慮した解析が必須でした。

そういった状況の中、種々の電磁界解析ツールを探し、JMAGにめぐり合うことができました。JMAGは抜群の使いやすさがあり、何よりもモータの回転を模擬した過渡現象の解析と、磁石渦電流の発生を3次元でシミュレーションできることが、まさしく期待に応えるものでした。個人的には、PMモータの永久磁石に生じる渦電流の解析には本当に驚かされ、それにより設計段階での新たな冷却方式の検討など、いわゆる前工程と後工程の擦り合わせ作業を充実させられるようになりました。

松橋氏:
導入当初のJMAGは、ワークステーション上で動作するため解析専任者が必要でしたが、現在は、PC上で動作するようになって操作性が格段に向上し、いろいろな部署で活用されるようになりました。そして、設計・開発者がJMAGを使えるようになった事で、試作のレベルアップと試作回数の削減を同時に実現できるようになりました。

PMモータをはじめとした全ての製品開発では、さまざまなステージ毎に試作を繰り返し、技術と品質の検証を行っています。わたしたちは、ステージ毎の試作を確実に1回で完了するため、解析技術を用いたフロントローディングに取り組んでいます。もちろん究極の目標には、全てをシミュレーションに置き換えた試作レスがありますが、その理想を実現するにはもう少し時間が掛かりそうです。しかし、試作回数削減へのJMAGの貢献度は高く、JMAG導入後は、大幅な作り直しや開発を一からやり直すといったことはほとんど無くなっています。

SPMモータの磁束密度分布SPMモータの磁束密度分布

IPMモータモデルIPMモータモデル

永久磁石の渦電流損失分布永久磁石の渦電流損失分布

*1 有限要素法=物体を、仮想的に有限の大きさの要素に分割して物体を要素の集合体として解析する手法。
*2 トルクリプル=モータが回転する際に生じるトルク(力)脈動のこと。トルク脈動の発生は騒音や振動の原因となり、制御性を悪くする場合もある。

解析成果を共有する環境整備が導入効果を高める

JMAGを皆さんにご利用いただき定着させ、結果的に導入効果を高めるためには、どのような工夫が必要だとお考えですか。

野村氏:
確かに当社でも、すぐに全社でJMAGの利用が進んだ訳ではありません。ただ、JMAGが定着していくための要件はあったように思います。

例えば、今の解析制御技術課の元になる部署が主導で、全社的に信頼される解析技術を構築したことも重要なポイントでした。解析した結果のデータと実際の実験データを付き合わせて整合性や誤差を明らかにし、誤差が生じた場合は理由の検討結果も明らかにする。それらすべてを有効なデータとしてどんどん積み上げていき、共有の技術資産として活用を促すことで、関係部署に認知され、普及と活用が進みました。現在も、データベースサーバーを置いて、各部署の情報を可能な限り開示してナレッジ資産による競争力の強化に努めています。

渡辺氏:
他に、JMAGだけでなくCAEの有効性を社内にアピールしたのも大きかったと思います。当社では、社長が出席する技術報告会や社内展示会、品質マネジメント会議などの折々に他社のソフトとの比較を示しながらJMAGの有用性をアピールする活動を行いました。

社長の現場診断の際には、試作回数が1回で済んだというようなコスト効果を含めたアピールをしました。それを評価してもらい、トップダウンでPRしてもらうと説得力がありました。社長も技術者ですので、JMAGの活用によって試作が1回で済むことの意味を十分に理解していただくことができ、全社的にJMAGを展開することができました。

社内展示会の様子社内展示会の様子

一人ひとりの技術者が、JMAGの価値を発見できる機会づくり

松橋氏:
とは言っても、導入効果を高めることの基本となるのは、個々の技術者にJMAGの価値をいかに実感してもらうかです。わたし自身も、JMAGが導入されたときに、渦電流の発生について自らの目で確認できて感激した経験がありますので、JMAGの価値については十分に理解しています。

これは実際にJMAGを使っている開発者から聞いた話ですが、永久磁石に生じる渦電流損失の分布をシミュレーション画像で確認して実際の現象と照らし合わせ、「自分は間違っていなかった」と自信を得たといいます。

私や同僚の経験を一人でも多くの技術者に味わってもらうことが大切だと感じましたし、実際、明電舎では、そのようにJMAGが広がっていきました。特別にキーマンを決めたりしているわけではありません。「そういう解析ができるのならば、こういうこともできるのかな」といった疑問のやりとりを大事にし、皆で気軽に使ってみる。そのために操作方法の基礎的な習得だけでなくディスカッションも含めた組織横断的な技術者交流会を開いたりしています。

もちろんそれを実現できるのも、JMAGそのものの使いやすさがあっての事です。当初導入したワークステーション版も、当時としては画期的なマウス操作のユーザーインターフェイスを備えていましたし、JMAG-Studio、JMAG-Designerとバージョンアップと共に、多くの技術者に受け入れられるインターフェースへと進化していると思います。

環境新技術にさらなるシミュレーション機能の拡大を

ところで三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」に、明電舎の駆動用モータとインバータが採用されているそうですね?

山田氏:
はい。小型で軽量、低騒音、そして優れた耐久性を実現した電気自動車駆動用のモータとインバータを、2008年から納めています。

納入しているPMモータは、JMAGを使ったシミュレーションで最適設計され、損失を低減して高効率・高出力、さらに小型軽量化を実現しています。またモータに流す電流をコントロールするインバータは、高度な制御技術を駆使し、自動車のスムーズかつパワフルな走りを支えています。

もともと当社は、PMモータのエレベータへの利用研究のほか、大手電力会社や大学との共同研究で電気自動車向けのモータの研究を続けてきました。F1並みの高速走行を実現した電気自動車にも当社のモータ技術が利用されています。これら、従来の研究で蓄積してきたモータ・インバータ技術をベースに、更にブラッシュアップして、i-MiEVの優れた走行性能を実現しています。もちろん、そこにはJMAGのシミュレーション技術があったわけです。

明電舎様の今後の事業展開のポイントと、JMAGが果たせる役割についてお聞かせいただけますか。

山田氏:
当社は現在、2009年度から始まった5ヵ年の新中期経営計画「POWER5」に取り組んでいます。この中期計画では、電気自動車用モータとインバータなど、”低炭素社会に貢献できる5つの成長事業の確立”をめざしています。いずれの事業とも、何らかの形でモータなどの回転機技術と関係を持っています。技術のロードマップを描いてみても、やはり回転機を軸とした技術成長が続くと考えられます。そのうえで、環境問題に寄与するための製品への工夫が不可欠になります。

今後は、トータルの環境負荷をいかに減らせるかを課題に、製品のライフサイクルの最終段階である解体性に考慮した設計手法の構築などが求められます。たとえば、PMモータであれば、回転子の永久磁石を簡単に回収できるような設計の工夫が必要になるでしょう。つまり、重電機や産業系電気の世界でも家電と同じような、製造物責任に立脚したリサイクル体制の構築に取り組まなければなりません。

渡辺氏:
今後の方向性としては、プロダクト・ライフサイクル・マネジメントを確立し、製品の環境負荷を定量的に把握するだけでなく、地球環境にもお客様にも優しい製品開発を進めていかなければなりません。それには開発の早い段階、すなわち素材の選定やコンセプトの段階から性能を検証できる必要があり、それはシミュレーションの重要性が益々高くなるということです。

JMAGには、計算速度の更なる高速化や解析範囲を熱流体解析にまで広げて欲しい、といった現実的な要望もあります。しかし、もう少し広い視点で見たとき、解析段階でCO2排出量を計算できるとか、使用した資源のリサイクル率を向上させるための工夫を検討できるといった機能が加味されると本当にありがたい。

JMAGは、1983年の登場以来、電磁界解析ソフトウェアとしては常にトップランナーとして高い評価を得てきたと聞きます。だからこそ、さらに技術者の頼りになるソフトウェアとしての進化を期待したいですね。

i-MiEV用のモータ、インバータi-MiEV用のモータ、インバータ

お話を伺った方

山田 哲夫氏
株式会社明電舎
執行役員 製品開発本部長
山田 哲夫氏

野村 昌克氏
株式会社明電舎
製品開発本部 シニアフェロー
野村 昌克氏

渡辺 広光氏
株式会社明電舎
製品開発本部 製品開発企画部 主管技師
渡辺 広光氏

松橋 大器氏
株式会社明電舎
製品開発本部 製品開発企画部 解析制御技術課長
松橋 大器氏

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株式会社 明電舎
会社名
株式会社 明電舎
代表者
取締役社長 稲村純三
設立
大正6年6月1日
資本金
170億7,000万円(平成21年3月31日現在)
連結従業員
7,133名(平成21年3月31日現在)
連結売上高
1,987億9,700万円(平成21年3月31日現在)
事業概要
1897年(明治30年)に創業した重電機器メーカー。発電・変電・制御装置、水処理装置などの「社会システム事業」のほか、エレベーターや電気自動車向け駆動装置、産業用コンピューターなどの「産業システム事業」、各種メンテナンスの「エンジニアリング事業」を柱とする。連結売上高は1987億円(2009年3月期)。グループ連結子会社数は国内23社、海外15社を数え、特にアジアを中心に生産と販売のグローバル体制を構築している。
現在、電気自動車向け各種部品、太陽光や風力発電などの自然エネルギー利用分野などに注力している。

[JMAG Newsletter 2010年9月号より]