パナソニック株式会社

家電の技術を産業のパートナー企業様へ - JMAGは、技術革新を促す戦略的ツール -

軽薄短小で高機能。家電製品の進化を促し、自らもまた進化を遂げてきたのがモータである。その進化は現在、自動車用部品、産業用部品として独自のアプローチを始めた。一連の研究と開発を支えているのがJMAGだ。パナソニック株式会社で主要家電製品用と車載用、産業用の研究・開発を担う黒河通広氏と岡田幸弘氏に、JMAGを活用した製品開発を聞いた。

80年前の松下幸之助の予言を超えるモータ活用

「言われてみれば」なのですが、家電製品には実に多くのモータが使われていることに気がつきます。

黒河氏:
ざっとリストアップしてもエアコン、洗濯機、掃除機、冷蔵庫、換気扇、食器洗い機、空気清浄機、DVDやブルーレイディスク、デジタルカメラ類、ファクス、ヘアドライヤー、シェーバーなどなど、実に多くの製品にモータが組み込まれています。
パナソニックのモータ事業が始まったのは、松下電気器具製作所が創業してから15年後の1933年のことで、2013年は80周年を迎えました。当時、創業者である松下幸之助は、「将来、文化生活が進めば、一家に10台以上のモートルが使われる」と予言して電動機部を開設したのですが、その予言をはるかに上回る活用が進みました。

アプライアンス社技術本部モータ開発センターは、あらゆるモータの研究と開発を行っているのですか。

黒河氏:
そうではありません。モータ開発センターは、アプライアンス社のモータ事業部のための研究・開発セクションで、家電分野ではエアコン、洗濯機、冷蔵庫用のモータの研究と開発を担っています。さらに自動車向けとして車載用ブラシレスモータおよびモータシステム商品、さらに生産機械向けの産業分野としてサーボモータとアンプなどのブラシレスモータに特化した研究開発を行っています。
技術分野としては、磁気回路の設計、制御システムの開発、磁石やモールド材料などの材料開発を担っています。材料を取り扱っていますので、生産プロセスや製造装置などの生産技術に関わることもあります。

モータ事業での「パナソニックらしさ」というのは、どのような点にあるとお考えですか。

黒河氏:
当社は家電用モータを中心に事業展開していますので、小型で効率の高いモータの開発をしてまいりました。これは車載分野でも産業分野でも基本的に同じです。今後、例えば車載分野ではHV車やEV車などの電動車の普及により、家庭にあるモータ以上にモータが増加することは間違いないでしょう。
車載モータの開発と実用化では、家電メーカーとして培ってきた発想やコスト力と、自動車側からアプローチしてきた発想とコスト力には似て非なるものがあります。私たちは当然ながら家電メーカーとして”軽薄短小”を究めるアプローチをしています。

QSDを積極活用してCAE時代の商品競争力を探る

現在、JMAGをどのように活用いただいていますか。

黒河氏:
主に当センターにおいては原型モデルの開発に活用しています。要するに、より短期間で、実用化できるモータ製品の実証確認の作業です。
家電製品は現在、通常1年、遅くても2年ぐらいの期間で製品が更新されますから、製品開発期間の短縮化のためにはJMAGによる作り込みは欠かせません。車載部品は、自動車メーカーのマイナーチェンジに合わせて、さらに産業用では3年から5年ぐらいの開発期間になります。
こうした製品更新の流れを背景に、すでにCAEでのものづくりは競合他社も当然のこととして行っており、そのなかでいかに差別化し、最終的にどのように商品競争力に結びつけていくかが問われます。

システムとしてのモータづくりに、JMAGは十分に貢献できているでしょうか。

黒河氏:
もちろんです。試作したモータと制御系の擦り合わせは非常に重要な課題で、例えば産業用モータであれば、高速な応答や高い位置決め精度をモータに求められますが、安定性と高速応答など背反する問題に対して、アンプとモータの制御マッチングを検証する時などにはJMAGでのシミュレーションが欠かせません。

岡田氏:
電磁界有限要素解析(Finite Element Analysis:FEA) でも、かつては表計算ソフトでベースとなる形状の定義をしてから解析していましたが、現在は、CADデータをそのまま解析できますので原理検討や設計検証の時間は大幅に短くなっています。JMAGのFEAの応答、解析能力も向上しており、2次元モデルの場合だと非常に短時間で結果を得られます。

解析にあたってQSDを活用なさっていると伺いました。

黒河氏:
パナソニックでは、品質安定化設計手法(Quality Stabilization Design :QSD)を設計開発に展開・推進しています。QSDというのは世界的標準のタグチメソッドをパナソニック流にアレンジ進化させて最適化実験技法として仕上げたものです。開発においては、このQSDとCAEを組み合わせて活用しています。例えば、あるモータの開発においては、設計パラメータを9から16項目ぐらい用意して解析を始め、最終的には2項目ぐらいまでに絞り込んで製品仕様を“詰める”ようにしています。
最近のトピックスとしては、JMAG-Express PowermodeとQSDを活用して、希土類磁石ではなくフェライト磁石を用いたIPMモータの高効率化、最適化設計を行ったケースがあります。言うまでもなく、希土類磁石に比べればフェライト磁石の残留磁束密度は1/3程度まで下がるわけですが、これに対して集中巻のマグネットトルクとリラクタンストルク比率の最適化にJMAG-Express Powermodeを活用しました。

まずJMAG-Expressで概念設計を行い、次にJMAG-Express Powermodeで基本設計を行い、そしてJMAG-Designerで詳細設計を行うというシームレスな解析ができました。
この開発ケースでは設計パラメータに合わせてL18直交表の実験を実施しました。つまり最少の組み合わせで総当たり実験と同じ検討ができたのです。その結果、フェライト磁石モータを損失バランスのよいモータ設計をすることで、性能やコストで優位性を創出することが確認されました。

解析時間の短縮実績はどのようなものでしたか。

岡田氏:
19モデルについて条件設定を含んだ解析時間を比較すると、JMAG-Studioでは1モデル60分で総計1140分、JMAG-Express Powermodeでは1モデル10分で総計190分、さらにJMAG-Express Powermodeにパラメトリック解析を併用した場合では1モデル5分で95分という実績でした。つまりJMAG-Express Powermodeの活用だけでも解析時間を6分の1に短縮できたのです。

とにかく使いやすく直観的。JMAGのユーザーフレンドリーさ

JMAGを導入いただいた経緯はどのようなものでしたか。

黒河氏:
JMAGは、発売当初からモータに特化した様々な機能を備えていたので、導入にためらいはありませんでした。1996年ごろに空調用モータの開発のために導入したのが最初ではなかったかと記憶しています。
元々当社では、独自に開発した解析ソフトを活用していたのですが、そこにモータに特化した解析ソフトウェアが出たというので、まず研究所に導入して解析を中心に利用していました。JMAG活用の有効性はすぐに評判となり、2000年になると事業部にも導入されて3D-CADと組み合わせた磁界解析に活用されるようになりました。

JMAGのどのような点が評価されているのでしょうか。

黒河氏:
とにかく使いやすいという声が多いですね。そして3D-CADとの連携など自動化にあたっても多くのサポートを得られ、大変助かりました。

岡田氏:
磁界の磁束密度を直感的に見られるのは、圧倒的な能力だと思います。複数の比較結果を見て、デザインを変更したり素材を変えてみたりできます。こういう、直観的な機能はとてもありがたいです。
応力の計算やインターフェースの改善は、早い時期から取り組まれており、非常にユーザーフレンドリーであったことも使い続けられた理由です。特に解析に関する質問を問い合わせた際、レスポンスが非常に速いのはありがたかったです。
JMAGの材料データベースと当社の独自のデータベースを加味して、独自の開発力につなげていけたことも、社内から広い支持を得られた理由だと感じています。

最終的には、試作レスというのが目標となりましょうか。

黒河氏:
それはどうですかね。試作検証作業では設計検証はもちろんのこと製造条件を含め様々な検証を行っており、本当の意味での試作レスというのは現在の技術では難しいのではないでしょうか。試作レスを追究するのであれば、もっと高速なCAE環境と新たな視点が必要になるでしょう。

岡田氏:
試作レスは理想ですが、試作品をつくる際の組み立て誤差が出ることは避けられない課題です。実際、(試作した場合)計算結果と整合性が取れるものと取れないものがあるのが現実です。
ですから、より”リアリティー”に近づくために活用する、と言ったほうが適切かもしれません。例えばPWM制御時のモータの振る舞いを見える化するだけでも、JMAGを活用するメリットは大きいと思います。

マルチフィジックス対応に一番近いのがJMAGではないか

JMAGの機能への御要望などがあればお聞かせください。

黒河氏:
やはりマルチフィジックスへの対応ではないでしょうか。摩擦、衝撃、応力、流体、光、電子、熱、電場、磁場、化学反応など、ものづくりはすでに、マルチフィジックス現象プロセスの解析を背景にしないかぎり技術革新に至らない所まで来ていると言っても過言ではありません。いわゆる総合シミュレーションソフトの登場が待たれているわけです。
私は、JMAGは、それに最も近い位置にいると考えています。フェライト磁石を使ったIPMモータの開発のケースでの話にもありましたが、JMAGは各ソフトの連携が非常にスムーズで、シームレスです。こうした特性は、マルチフィジックス対応の基盤になり、マルチフィジックスを実現しやすいのではないかと感じます。

岡田氏:
「今回はこの機能を創造するために、モータ特性の何に焦点を当てて開発するのか」。こういう疑問に対しては、非常に有効で、単なる解析ツールから設計ツールへと役割が拡大していくと思います。

モータ開発センターの次なるターゲットはどのような分野ですか。

黒河氏:
パナソニックグループ全社方針と同様に、住宅分野に加えて車載等の法人向け事業の強化をしていきます。車載用途や産業用途では、耐環境性能、静音性、小型化など分野毎にモータに求められる家電分野とは異なる技術課題はたくさんあります。逆に言えば、それほど発展の余地があるということです。ここに私たちは焦点を当てています。
例えば、車載分野では当社の強みであるAV製品に加え、電池やデバイスなど走行や安全にかかわる中枢部品を本格的に手がけ、従前の販売を大幅に拡大しようという目標を掲げています。更なる品質向上と顧客満足のために、研究開発のスピードをあげていかなければなりません。
現在、新しいモータの技術課題の解決と早期開発には、やはりJMAGが今後も欠かせないツールであることは間違いありません。だからこそ、課題解決に必要な機能も積極的に取り込み続けて欲しいと思います。

お話を伺った方

黒河 通広氏パナソニック株式会社
アプライアンス社技術本部
モータ開発センター
要素開発グループ
マネージャー 黒河 通広氏

岡田 幸弘氏パナソニック株式会社
アプライアンス社技術本部
モータ開発センター
要素開発グループ
主任技師 岡田 幸弘氏

パナソニック株式会社 (Panasonic Corporation)
商号
パナソニック株式会社 (Panasonic Corporation)
代表者
代表取締役社長 津賀一宏
本社
大阪府門真市
資本金
2,587億円(2013年3月31日現在)
連結売上高
7兆3,030億円(2013年3月期)
連結従業員数
293,742人(2013年3月31日現在)
連結対象会社数
538社(2013年3月31日現在)
パナソニック(株) アプライアンス社
パナソニックにおける、白物家電、設備機器、デバイスなどのアプライアンス分野を担う部門。モータ事業部はデバイス分野の一つであり、家電用・車載用・産業用の三分野で高効率ブラシレスモータを中心に展開している。

[JMAG Newsletter 2014年1月号より]