サンデン株式会社

企業間を繋ぐRTモデルがエネルギーマネージメント開発環境を変える

サンデン株式会社

車載用インバータを設計・開発・販売するサンデン株式会社はモータ設計メーカA社の提案によりモータのビヘイビアモデルが作成でき、制御シミュレータ上で解析ができる『JMAG-RT』を利用したモデルベース開発を予定している。サンデン株式会社の開発本部電子開発2グループでインバータの設計開発担当の廣野氏、塚本氏、開発本部強電デバイスグループでモータの性能を評価担当の関根氏、サンデン株式会社の取引先で、モータ設計メーカの技術営業T氏にJMAG-RTの利用メリットをお聞きした。

*RTモデルとは:FEAモデルから生成される制御シミュレーションで用いるビヘイビアモデル(モータモデル)です。

ハイブリッド車用電動コンプレッサーの性能向上に注力

貴社ではどのような製品開発に注力されていますか。

廣野氏:
私どもは主に冷熱関係の仕事をしています。大きく分けるとコンビニやスーパーマーケットの冷凍冷蔵ショーケースや自動販売機を作っている流通システム分野、エコキュートや無線通信のモデムを作っている住環境分野、私たちが担当している自動車機器の分野になります。私の担当分野では、エアコンの圧縮機になるコンプレッサーやHVACユニットの設計開発をおこなっています。最近は特に環境に優しいハイブリット車用の電動コンプレッサーの性能向上に注力しています。私と塚本は電動コンプレッサーのモータ制御設計を担当し、関根はモータの性能管理を行っています。
最近は、お客様の開発スピードがどんどん速くなっています。それに伴い電動コンプレッサー納入も、従来は半年ぐらいのリードタイムは頂けていましたが、最近は2、3ヶ月以内で納期厳守といった場合が多く、大変短納期要求が強くなっています。モータは外注をしていますが、スピードだけでなく、小型化やコストなど要求が多くなってしまうので、モータメーカさんには色々とご迷惑をおかけしています。

エネルギーマネジメントとは?

モータメーカT氏:
当社はモータ単体ではなく、周辺機器(例えばモータにギアや制御装置がつくところ)を含めた開発をおこなっています。
従来、お客様のニーズは省エネの問題、つまり効率に関することが多かったのですが、最近は特に自動車関連のお客様からエネルギーマネジメントという言葉をお聞きします。これはお客様が運転される全体領域の中でエネルギーをいかに無駄なく使えるか管理するということです。単純にピークトルクを追い求めるだけではなく、色々な運転領域でロスを出さない設計がトレンドになっています。一番使われるところだけを重要視するのではなく、バランスをとって効率を上げ、ロスは下げるということですね。

電磁場解析の取組み

なぜ、制御設計者がモータの磁場解析を されるのですか?

廣野氏:
当社はモータメーカさんに性能の要求を伝えるだけでなく、自分たちが欲しいコンプレッサーの特性に合ったモータになっているか検証する専属の担当者を配置しています。関根が2年前に「磁界の状況を把握していないと効率が良いモータかどうか分からない」と話した事がきっかけで、制御設計者としてもモータを理解する必要性を感じJMAGを導入しました。

関根氏:
電磁場解析は、初めての分野で最初は何を使っていいのか分からない状態でしたが、ワークショップ(セミナー)に参加したおかげで、導入してから1ヶ月で解析ができるようになりました。今は普通に2次元で解析して、コンター図や電圧の波形を見ています。

関根氏:
モータメーカさんに設計してもらったモータが私どもの要求事項を満たしているか解析したり、試作回数をなるべく減らすためにTさんに変更依頼もおこないます。

廣野氏:
モータメーカさんにはシミュレーション時に出来るだけ精度を高くしてもうらようにお願いしています。計算値や測定値が実際に私たちのモータ制御で回している時とズレてしまった場合、制御側は計り直すだけでなく、作り直すことになります。もちろん、熱・振動・強度・音など、制御以外の要素もたくさんありますが、制御屋の観点から言うと高精度なモータモデル技術に期待をしています。

サンデン様が期待する精度を出す為にはどのようなことが重要になりますか。

モータメーカT氏:
私どもはモータ設計をする際に、お客様の標準的なモデルや過去の製品を参考にしながら作っています。設計精度を上げる為には、実機と過去に設計された寸法にどれだけ差がでているか把握することがとても大切です。例えば、設計されたギャップが0.6で出来ているのに対し、作られたものが0.58だったというような場合です。現物とシミュレーションのコレクトファクターの把握が重要になります。

廣野氏:
以前は何回も要求特性が出ず作り直しをしてもらっていましたが、最近は依頼してから1回で、ほぼ要求通りの特性が出るようになりました。

JMAGを導入した経緯を教えてください。

モータメーカT氏:
JMAGを導入して4年になりますが、当社のCAEの歴史は10数年になります。制御を含め、合わせ込みをする際のシミュレーションがうまくいかず、JMAGに切り替えたという経緯があります。JMAG-RTを導入したのは最近です。モータを検証する場合、モータ単独で検証しても意味がありません。お客様が私どものモータを使う状態を想定し、お客様と一緒に開発・解析していかなければ、開発スピードが速く、的確なモータをご提供することができません。サンデン様と当社間でのJMAG-RTを利用した開発は現在、検証段階ですが、これはサンデン様にとっても時間短縮につながります。何回も試作することがないように、シミュレーションである程度目鼻をつけておき、1、2回の試作で済ませたいというのが、サンデン様のご要求ですし、私どもは時間だけでなく、材料や人件費を押さえることができるようになります。

<サンデン株式会社様のコンプレッサー>

ハイブリッドコンプレッサーハイブリッドコンプレッサー

エンハンスHFC134aコンプレッサーエンハンスHFC134a
コンプレッサー

自然系冷媒コンプレッサー自然系冷媒
コンプレッサー

<JMAGの解析結果1>

モデル図モデル図

メッシュ図メッシュ図

磁束密度分布(無負荷)磁束密度分布
(無負荷)

磁束密度分布(過負荷時)磁束密度分布
(過負荷時)

JMAG-RTを利用した企業間取引のメリット

JMAG-RTの利用を決めたきっかけは何ですか。

廣野氏:
以前、制御シミュレーションツールの理想モータモデルを使って検証をしてみたのですが、あまりにも実機のモータと合わないことが判明しました。その時にお客様からJMAGは制御シミュレータ用のモータモデル(RTモデル)が生成できると教えてもらいました。その後、TさんからRTモデル利用のご提案をいただき、検証用のRTモデル作成の依頼をしました。まだ検証段階ですが、車両用の電動コンプレッサー向けのモータ解析にJMAG-RTを使っていきたいと考えています。

JMAG-RTの利用メリットはどのような点あるとお考えですか。

モータメーカT氏:
お客様と情報共有をしながら、モータ仕様を固めていけることが最大の利用メリットではないかと思います。私どもはお客様の要求仕様に応じてモータを作っていますので、『お客様から要求された内容を網羅できているか』、『お客様が要求した内容がモータとして受け入れられないスペックや内容になっていないか』を把握することは極めて重要です。もし、お客様がスペックや内容にこだわりがあるようでしたら、JMAG-RTのようなツールを使って、どうしたら良いか相談ができるようになります。検証結果と情報を共有しながら仕様を固めていけるということは重要です。JMAG-RTの最大のメリットは仕様決めと開発スピードの向上ではないでしょうか。

どのようにしてサンデン様へJMAG-RTモデルをお渡ししているのですか。

モータメーカT氏:
作成するにあたり、誘起電圧やトルク定数を現物や過去の事例と比較しています。『これだったら、精度に問題がない。』と検証してから、お客様にお出ししています。今回もLdLq、誘起電圧、トルク定数を確認してから廣野さんにお渡ししました。

廣野氏:
RTモデルのデータ容量はメールで送れるぐらいのものなのでメールでいただいています。

<JMAGの解析結果2>

d軸インダクタンスd軸インダクタンス

q軸インダクタンスq軸インダクタンス

トルク波形トルク波形

モデルベース開発への期待

JMAG-RTに今後どのような期待をお持ちですか。

モータメーカT氏:
現在はトライ・アンド・エラーのように『ここの結果は良かったが、ここは少し足りないから、もう1回やり直し』ということを行っているのが現状です。サンデン様やその他のお客様にJMAG-RTを使っていただき、お客様が開発されている機械でモータを動かした時に的確な仕様になっているか検証いただければ、『定常状態で運転している分には問題ないが、過負荷や軽負荷のところで問題である。』というようなことがあらかじめ見えるようになります。それにより当社側はお客様から早く的確な仕様の要求とフィードバックをいただけるので、開発スピードの向上に期待を持てます。JMAG-RTにはそういうメリットがあるわけですから、お客様の要求にうまく応える、あるいはお客様の要求を早くまとめることができる便利なツールだと思います。また、JMAG-RTのRTモデルは精度も高いので、単にモータの誘起電圧が合うとか合わないというだけでなく、可動の特性としてイレギュラーな動きがないか見ることができます。お客様からいただいた要求仕様に対して一発でこのモータが良いとか悪いとかを回答できるような形にしていきたいですね。

廣野氏:
弊社の場合、まずはモータのパラメータを確認するところからJMAG-RTの利用を予定しています。現在でもLdLqのデータをTさんにいただいていますが、材料によって変わりますし、電流によっても変わる値なので、どうしても口頭やデータシートを頂くだけですと、それだけで実機を回すのは難しいです。まずはそういうパラメータを活用していきたいですね。将来的にはモータパラメータを利用して、圧縮機、モータ、インバータ、インバータ制御で連成解析をしていきたいと思います。しかし、時間とお金の問題もあるので、どこまでシミュレーションできるかは課題になります。

昔は設計する人がある程度、モータ特性を把握してないとモータがうまく回らなかったのですが、JMAG-RTがあればモータを知らない制御設計者でもシミュレーション上でモータを回せてしまうのではないでしょうか。さらに、JMAG-RTは高調波を正確に再現するので、その検証ができることも分かりました。実際にモータを作らなくても『このモータは合わない。』ということが分かるので制御側の開発が進みます。それが試作回数低減による経費の節減につながり、全体の工数はもちろん、実機での検証時間の短縮につながります。やはりそういうところのメリットは大きいのではないでしょうか。

電動コンプレッサー電動コンプレッサー

お話を伺った方

廣野 大輔 氏サンデン株式会社
開発本部
電子開発2グループ
廣野 大輔 氏

関根 和孝 氏サンデン株式会社
開発本部
強電デバイス
グループ
関根 和孝 氏

塚本 健郎 氏サンデン株式会社
開発本部
電子開発2グループ
塚本 健郎 氏

サンデン株式会社
会社名
サンデン株式会社
代表者
鈴木一行
設立
昭和18年(1943年)7月30日
資本金
11,037百万円
年商(連結)
216,690百万円(平成20年度)
グループ従業員
8,750名(連結)
事業概要
自動車用のエアコンや自動販売機、エコキュートなどを生産している。1943年の創業以来、世界をフィールドに事業活動を展開し、コーポレートスローガンとして掲げる「Delivering Excellence」を実現するために、常に技術開発とモノづくりに基づいた、魅力のある製品、システム、サービスを世界中のお客様に提供し続けている。カークーラー用のコンプレッサーは主力製品で、国内自動車メーカはもとより欧州の自動車メーカにも納められている。

[JMAG Newsletter 2010年3月号より]