JMAGを、モータ開発の「共通言語」として活用 独自の活用策も編み出し、独創的な開発を加速
ハイブリッド車や電気自動車など環境に優しい車の開発は、21世紀の自動車産業の覇権を左右すると言っても過言ではない程、熾烈を極めている。その中、中核部品となるのがモータで、本田技術研究所は独創的なモータ開発で業界をリードしている。
そこではJMAGは「モータ磁気回路の共通言語」として活用され、ホンダらしさの誕生に貢献している。
同社4輪R&Dセンター第5技術開発室の貝塚正明モータ開発グループリーダーとスタッフの皆さんにJMAGについて伺った。
“一発必中”の精度でクルマづくりの基礎作業を支える
貝塚氏:
ハイブリッド(HEV)や電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHEV)そして燃料電池車(FCV)などの電動パワープラントの開発です。具体的にはモータをはじめバッテリーやインバーターなどを対象にしています。その中で私達は、主にモータの開発、研究にあたっており、量産へ向けた開発を担うメンバーや将来へ向けた要素技術を担うメンバーがいます。
貝塚氏:
ホンダのFITに搭載しているハイブリッドシステムは、高い環境性能を備えながら1個のモータという比較的安価で供給できるという大きな特徴を持っています。加速時にはモータからの出力を活用し、減速時の回生発電も同じモータで行います。加速用と回生発電用の2個のモータを必要としないので比較的容積の小さい専用2次電池を搭載するだけで済みます。
更に軽量でコンパクトな設計が可能になるので幅広い車種に搭載できるようになるといった相乗的なメリットがあります。こうした技術成果を基に、モータを内製(自社生産)していますが、その開発と設計にあたっては、量産開始に間に合わなければ大きなダメージを招きます。開発段階から生産開始に1秒でも遅れないように作らなければならないという非常にシビアな開発条件下で、JMAGは今や、私達に必要不可欠な開発・設計ツールになっています。
貝塚氏:
トルク、トルクリップル、損失、出力等の精度は実測と合って当然のものです。その上で、ものづくりを始める初期段階から高い精度の解析を実現し、試作回数を削減するために、さまざまな課題の検証に使います。言葉を換えれば、ものを作らないで計算し、計算した結果を作れば、それが一致しているという”一発必中”の精度が求められているのです。JMAGを活用することですべてのモータにおいて試作回数が1回で済むということにはなりませんが確実に”一発必中”へ向けて前進しています。
JMAGの利用方法については当社独自の活用術があり、JMAGユーザー間で共有化もされています。例えば、独自のモデリング手法、使い方指南、開発品の不具合の原因究明などで、独自のJMAG解析手法を着実に生み出してきたからこそ、JMAGをモータ開発の重要なツールに出来ているという自負もあります。現在はもう一歩踏み込んだモータ音や熱の解析などについても高い精度の実現に取り組んでいます。
技術要件のレベルの高さをJMAGで乗り越える
河波氏:
私はEVとFCVのモータ開発を担当しています。まずEVでは、走行距離の確保、その為の効率の良いモータや動力性能の実現、車両としての成熟性などの技術要件があります。特に効率ではEVやFCVはモータで動く車なので、熱冷却性が厳しく求められます。精度の良い熱設計を行うには、発熱量と部位を正確に把握する必要があり、JMAGの有限要素法を利用した磁界解析シミュレーションで損失を算出し求められた損失分布を使い熱解析を行っています。
河波氏:
EVとFCVは燃料がちがうだけでモータとしての相違はありません。いずれにしろEVとFCVもモータ開発についての力量は他者との違いが明確に出る部分です。モータの効率がそのまま電費や走りの快適性につながります。特にモータ磁石の減磁は非常にシビアな問題になります。限界まで設計を詰め、どこで磁石が減磁するのか見切りを付けられるかといった判断にJMAGは欠かせません。
相馬氏:
私は「FIT」や「VEZEL」などの1モータのハイブリッド車を担当しています。1モータ車では、特にモータに対して要求されるトルク密度が高くなっています。
それでいて搭載スペースはなるべく狭くしたいので、モータ大きさや形状をぎりぎりまで追求しなくてはなりません。部品同士の隙間も狭いので熱関係の条件も厳しくなります。その一方で、ハイブリッド車が増えれば増えるほど量産効果が高まりますので、1円でもコストを下げて作りたい。そのギリギリの設計のためにJMAGを日々活用しているという状況です。
井上氏:
私は2モータの「アコードPHEV」などの開発に関わっています。モータが2つなので開発スタッフも2倍という訳ではありませんので、開発を短縮する必要がありJMAGの活用は前提です。具体的には開発段階で何に注目すべきかについてJMAGを使って探索します。様々な状況を入れ込み広く設計パラメータを検討し、そこで課題を抽出し、深堀りして解決策を練り、実用化につなげるという流れです。特に熱解析のウェートは高く、JMAGの熱解析を多用しています。
「十分に解析で検討された結論だからこそ信用できる」と評価される
貝塚氏:
当然、電動車の開発のためにモータ開発を始めたのですが1990年代初頭であったと記憶しています。従来の車にもモータ類は多く搭載されていたのですが、電動車のモータは全く異なるものです。しかし私達にはモータ設計や磁場解析などについての知見がなく、「どれくらいのモータを作れば、どのくらいのトルクが出るのか」も分からないような状態でした。
勉強を重ねると同時に、磁場解析ソフトを導入して、何とか初号機となるモータを世の中に送り出しましたが、その時に使用していた磁場解析ソフトではモデルが大きくなればなるほど計算時間がかかり実用に対しては不満がありました。
貝塚氏:
そうです。最初は数ライセンスのJMAGを導入するところから始めましたJMAGの使い勝手の良さ、精度の高さ、解析範囲の広さ、充実したサポート体制等から期待を超える成果をもたらしてくれました。社内でも自然とJMAGユーザーが増加し現在ではほとんどの部署がJMAGを活用しています。
壱岐氏:
私は将来の要素技術を担当しています。最適化計算により数千以上のパターンを組み、さまざまな条件に対してどのようなモータ特性を示すのかを調べています。そのためJMAGで検討された設計は「解析で十分検討されているので、設計の信頼性が評価できる」と言われています。
大矢氏:
私は、新しい世代のモータや1モータタイプの2つの領域を担当しています。条件や要求のクロスポイントはどこにあるのかなどを探ります。それぐらいの限られた設計空間で最適な条件を詰めていきます。「実際にどうなるのか分からないので、とりあえず作ってみるか」ではなく、現在ではJMAGの解析結果を基に1つの仕様しか製作しません。JMAG解析結果は期待通りのアウトプットをもたらしてくれます。
壱岐氏:
いわゆるぶっ飛んだ「こんなことがわかるのか」という課題に対しても、JMAGは大きな力になってくれています。開発のキーワードを「低コスト、小型、高効率」に据えて取り組んでいますが、この条件を満たしているモータは、EVにもHEVにも使えて開発効率が高まり、開発費削減にも大いに寄与しています。もはやJMAGが無い開発は考えられません。
貝塚氏:
JMAGを評価する点でも忘れてはならないのは、生産現場との連携にも必須ということです。先にもお話した通り、内製モータ開発は量産を1秒でも遅らせてはならないというクリティカルなものです。ですから生産現場との早い段階からの擦り合わせが不可欠となります。JMAGの解析結果から決定した磁気回路仕様をベースに生産現場と議論するだけでなく仕様の根拠をJMAGの解析結果から示すことも多く、生産現場との整合の中で発生した課題に対する解決についてもJMAGを活用します。今後は海外の生産現場との整合も重要になると考えておりJMAGを”共通言語”として活用していく必要性は非常に高いと考えています。
熱解析や構造解析も含む統合ソリューションへの成長を期待
貝塚氏:
ニーズとしては「モータ開発の統合ソリューション」への拡大です。磁場解析については、JMAGは国内で一番のシェアを持っています。それだけメーカー間でも共通ツールとしての認識が高まっています。「JMAGのデータを基に検証する」という動きは既に定着しています。
その上で、ユーザーとしてはもう一歩踏み込んだ統合型ソリューションになることを期待しています。JMAGの熱解析や構造解析を更に充実させて「モータ開発はJMAGだけで可能」という状態を目指して欲しいですね。その意味で熱解析やNV解析との連携は重要だと考えています。そのような解析とJMAGの強みである磁場解析をリンクさせて統合的に検証できるような仕組みを期待しています。
お話を伺った方
貝塚 正明 氏
栃木研究所
4輪R&Dセンター 第5技術開発室
第1ブロック チーフエンジニア
河波 光治氏
担当:EVとFCVのモータ開発
相馬 慎吾氏
担当:HEV(1モータ)のモータ開発
井上 雅志氏
担当:HEV(2モータ)のモータ開発
壱岐 友貴氏
担当:将来の要素技術の開発
大矢 聡義氏
担当:新しい世代のモータやHEV(1モータ)のモータ開発
[JMAG Newsletter 2014年12月号より]