第6回 次世代の電磁界解析セミナー ~モータの高精度損失解析の実務への展開 続報~

2015年7月7日にモータの損失評価に焦点をあてたシミュレーション技術の最新動向を解説するセミナーを開催いたしました。今回のセミナーは、2013年に開催いたしました”第5回次世代の電磁界解析セミナー ~モータの高精度損失解析の実務への展開~”の続編になります。
新しい材料モデリング技術の理論、これからのモータ開発に求められるシミュレーション技術、先進的な適用事例、材料の利用および測定技術などについて、各分野でご活躍の研究者・技術者の方々に解説いただきましたので、その一端を紹介いたします。

「高精度損失解析の実務展開における課題と今後の取り組み」
株式会社JSOL 山田 隆

損失解析の高精度化は殆どの電気機器設計者にとって重要な課題であるにもかかわらず、そこで使われている解析手法は20年近く変わっていません。その間、解析の精度や信頼性は確かに向上していますが、それは利用者の”使いこなし”によるもので、解析手法の限界を超えることはできません。直流重畳時の鉄損などはその典型例であり、多くの設計者が悩みを抱えています。
損失解析の現状と課題を表に示します。理想的な条件の下での基本的な評価は既に可能であり広く使われていますが、磁気飽和、偏磁、高調波などが強く影響するような場面では課題を抱えています。課題解決のためにはアルゴリズムの開発はもとより、こと損失に関しては材料開発、測定技術の開発、利用技術の開発が必要になります。加えて、解析技術の実用化とは必ずしも技術進化や環境の整備だけでなされるものではなく、経験の共有が極めて重要であることを紹介しました。
課題解決に対する取組として、ヒステリシス損失に対するプレイヒスヒステロンモデル、渦電流損失に対する均質化法の適用、加えてこれらを後処理として扱うのではく解析全体の中でエネルギーの入出力収支を成り立たせるよう方法について紹介しました。加えて、異常渦電流損失、加工劣化を含む応力依存鉄損特性、巻線の高周波交流損、漂遊負荷損に対する取組も紹介しました。

表 損失解析の現状
損失分類 課題 解析技術
実用 新しい技術 これからの技術
鉄損 ヒステリシス損失 正弦波 調波分析/最大値
波形歪・
マイナーループ数
ループカウント
マイナーループ位置 プレイモデル
エネルギー収支 直接法
渦電流損失 正弦波 調波分析
表皮効果 均質化法
異常渦電流損失 分離 均質化法補正 新しいモデリング
エネルギー収支 直接法
空間高調波 3D解析 新しいモデリング
応力依存 応力分布 応力解析連成
損失特性データ 応力依存性測定
加工歪 応力分布 測定からの推定 打抜きシミュレーション
損失特性データ 応力依存性測定
銅損 コイル/導体 高周波損失 高並列処理 ズーミング
漂遊負荷損 磁石 高調波成分 並列処理 高並列処理 超高並列処理
その他構造物 3D渦電流解析 並列処理 高並列処理 超高並列処理

「ヒステリシス磁界解析の基礎」
京都大学 工学研究科 電気工学専攻教授 松尾 哲司 氏

鉄芯材料、特に電磁鋼板の磁気特性として、ヒステリシス特性、ベクトル特性、異常渦電流損失、積層構造、応力特性を考慮しなければなりません。プレイモデル、Cauer回路、均質化法を組み合わせて使用することで、残留磁気や偏磁状態での磁気特性、板厚方向の非線形磁気特性および高い周波数でも高精度に板厚方向の渦電流損失を評価することが可能です。
ヒステリシス特性に関する従来法が抱える課題として残留磁気や偏磁状態での磁気特性、ヒステリシス損失があります。ヒステリシス特性を表現するヒステリシスモデルとして、Chuaモデル、Jiles-Athertonモデル、Stoner-Wohfarthモデル、プライザッハモデル、プレイモデルなど様々開発されています。有限要素解析への適用を考えたときに有効と考えられるプライザッハモデルとプレイモデルに関してアルゴリズムを紹介しました。プレイモデルがプライザッハモデルと数学的に等価であること、磁束密度を入力としたプレイモデルを使用することでS字状に変化するBH特性も高精度に表現することができます。
鉄損特性テーブルを使用した渦電流損失評価の課題として測定可能な周波数制限が挙げられます。この課題に応えるモデルとして均質化法によるモデル化があります。電磁鋼板一枚毎の平均磁束密度と鋼板の表面磁界の関係を導出し、板厚方向に1次元有限要素解析を行うことで渦電流損失を計算することが可能です。この渦電流損失に含まれない異常渦電流損の見積もり法としてBertotti氏の手法を紹介しました。加えて、PWM励磁時などに必要になる高周波交流磁気特性をCauer回路で表現する方法を開発し、これをプレイモデルと組み合わせ、等価回路として板厚方向の非線形磁気特性を表現するモデルとその有効性を計算例を通じて紹介しました。

「無方向性電磁鋼板の開発動向と磁気特性に及ぼす加工の影響」
JFEスチール株式会社 スチール研究所 電磁鋼板研究部 主任研究員 戸田 広朗 氏

モータの高性能化、省エネルギー化に向けてモータ製造工程の加工の影響を受けにくくするための材料開発が必要です。モータ鉄心に多く用いられている無方向性電磁鋼板の高性能化に向けた開発動向を紹介しました。
磁気特性に及ぼす、打抜き・せん断加工、かしめ加工、固定(焼きばめ、圧入など)の影響についての測定、検討しました。結果、硬さの高い材料と板厚の薄い材料がせん断の影響を受けにくく、鉄損増分が小さいことが分かりました。加えて、高周波鉄損低減のための材料開発として、6.5%Si鋼板、傾斜高Si鋼板をその製造工程含めて紹介しました。
せん断加工端部のだれ量に及ぼす硬さや板厚の影響を紹介し、だれ量と鉄損劣化率との関係を解説しました。構造解析により硬さや板厚の違いによるだれ量、歪量の推定が可能なことを示しました。素材の高硬度化、薄板化によってせん断加工時の歪量が小さくでき鉄損増加が抑制できます。
せん断加工した電磁鋼板を用いてIPMモータを試作し、実機の鉄損測定結果と解析結果との比較を行った結果、せん断幅ごとに測定した磁気特性、鉄損特性を用いて解析を行った場合に測定結果とよい一致を得ることが確認できました。

「モータ設計、制御における課題と今後の展望」
芝浦工業大学 工学部電気工学科 教授 赤津 観 氏

モータ設計の目標として、低コスト、高効率、高トルク密度(小型化)が挙げられ、小型高効率化することは低コスト化につながります。高トルク密度化にしろ高効率化(低損失化)にしろ、突き詰めると素材に頼るところが多く、材料の使いこなしひいては使いこなすための材料モデリングが重要になります。
現状のモータ設計、制御設計ワークフローの課題として両者間でフィードバックがないことが挙げられます。JMAG(FEA)モデル、JMAG-RTモデルを利用してモデル間および各モデルと試作機との間でフィードバックをかけるアプローチが提案されました。試作機の特性をJMAGモデルで表現するためには、打ち抜き時や応力印加時の電磁鋼板および磁石の動作時の特性、寸法公差を把握する必要があります。1mmから30mmまで幅違いの電磁鋼板の打抜きによる劣化特性として、磁気特性、鉄損特性をそれぞれ示しました。試作機で得られる打抜きによる劣化特性をJMAGモデルにフィードバックします。
試作機を利用したJMAG-RTモデルのオンラインチューニング(システム同定)、試作機で測定した温度状態をJMAG-RTモデルに反映する仕組みを紹介しました。
JMAG-RTモデルから、高調波渦電流損失をJMAGモデルにフィードバックする、また試作機と各モデルに及ぼすモデル間で効率的にフィードバックを行うためにはフィードバック量をデータベース化するなどの取り組みが必要になります。データベースを利用し対話的にJMAGを利用することでフィードバックを取り入れたモータ設計、制御設計が行えるようなります。

「磁場解析による鉄損計算における加工歪みの影響」
株式会社デンソー 材料技術部 担当次長 岡崎 恵一 氏

EV/HVを今後世界的に益々生産していく計画であり、その主機モータに対する車両側の要求として、小型・高回転化が挙げられます。小型高回転化には低磁気損失化が必須であり、損失評価技術を開発することが重要です。
モータに発生する損失には大きく機械的損失、電気的損失、磁気的損失が挙げられますが、特に磁気的損失に関しては計測が難しくかつ計算誤差も±30%と大きいという課題があります。磁気的損失の中でも鉄損評価に課題があり、特に小型化を目指した場合には加工歪の影響が大きく、高回転化を実現するためには高調波磁束の影響が大きいためこれらの検討が必要です。
加工歪分布をX線を利用して測定しようとしても回折ピークが弱く信頼性が低いという問題があります。打抜き加工シミュレーションによる歪分布把握の可能性を検討しました。構造解析ソフトウェアを利用し、せん断解析、スプリングバック解析を一連の流れとして行い、応力下での磁気特性、損失特性の測定を別途行いました。構造解析で得られた加工部付近の応力分布から、それに応じた磁気特性、損失特性を割り当て鉄損計算を行った結果、実測とよく一致する結果を得ることができました。加工シミュレーションのさらなる精度向上および加工歪分布を簡便に設定できるシステム改善を要求します。

「鉄心の詳細な磁気特性を考慮したモータ設計についての検討」
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 電機システム技術部 部長 大穀 晃裕 氏

モータの小型化と高性能化はトレードオフの関係にあり、これを実現するためには設計段階でモータ性能を高精度に予測する必要があります。高性能化とはつまり低損失化、低コギングトルク化、低トルクリップル化、低振動・騒音化を進めることです。設計時の性能予測精度の低下要因としては、形状誤差や材料特性劣化など製造工程で生じる要因と鉄心、永久磁石など素材特性の不均一性の要因とが存在します。ここでは鉄心の磁気特性に着目し、焼嵌めや打ち抜きにより発生する応力が鉄損に与える影響および磁気異方性、ヒステリシス特性がコギングトルクに及ぼす影響について考察しました。
焼嵌めによりステータコアに発生する応力を主応力として方向含めて考慮し、別途測定した応力依存性の磁気特性、鉄損特性を用いて計算することで実測と良い一致をみることを確認しました。モータ鉄心の打ち抜き解析を行い得られた歪と最大主応力に基づき材料を割り当てて鉄損解析を行った結果、打ち抜きを考慮することにより鉄損、特にヒステリシス損が有意に増加することが分かりました。
無方向性電磁鋼板も圧延方向とその直角方向で磁気異方性をもち、それぞれの方向の磁気特性を測定し、2次元磁化法を用いてSPMモータのコギングトルクを評価したところ実測とよく一致しました。プレイモデルを用いたヒステリシスのモデル化を行いモータ特性解析に適用したところ、ヒステリシス損失分として平均値がゼロにならないロストルクが評価可能なことを確認しました。

「おわりに」

損失解析の実務への展開というテーマでセミナーを開催いたしました。実務展開のプロセスを考えてみますと、これは技術進化や環境の整備だけでなされるものではなく、経験の共有が極めて重要です。それによって、新しい解析に対する不安が低減され利用が促進され、認知が進みます。利用者が増えると解析への評価が高まり、その解析が定番のものとなり実務に埋め込まれたことになります。
今回のセミナーで実務利用いただく一歩を皆さんで踏み出していただけました。今後それを確かなものにしていただくべく技術開発、環境整備だけでなく経験を共有していただくよう進めてまいりたいと思います。
Webサイトにて「コラム:解析屋が見た損失評価」を掲載しております。ご参照ください。

(鈴木 雄作)

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