モータ開発のジャンプアップサポート ~モータ開発における課題とJMAGの果たす役割~

モータ開発

このテクニカルレポートでは、モータ開発における課題とJMAGが果たす役割について報告します。
シリーズ第1回目は「省エネルギー・高効率化」です。

はじめに

今、私達の身の回りには無数のモータが存在しています。洗濯機や冷蔵庫といった家電から自動車やエレベータなどの大型製品、はたまた携帯電話や携帯ゲーム機など持ち歩くことのできる小型製品にまで幅広くモータは使用されています。日本で使用される電力の約60%がモータによって消費されているという報告もあります。
モータがこれほど社会に普及した裏には、モータ設計者の並々ならない努力と失敗の積み重ねがあることを忘れることはできません。JMAGはそんなモータ設計者達が持つ課題を解決するために使われ続けてきました。
本レポートでは、JMAGがモータ開発においてどのような課題に対して使われているのか、また使われているのはなぜかについてご紹介いたします。
シリーズ1回目の今回は、モータ開発における課題として省エネルギー、高効率化に焦点をあてます。

モータ開発における課題:省エネルギー、高効率化

省エネ・温暖化防止が叫ばれている現代において、モータの高効率化による環境問題に対する貢献が大きく期待されています。高効率を達成するためには損失を減らす必要があり、損失の発生原因や発生箇所を把握することが重要です。また、現在の世の中ではほとんどのものが小型、軽量化に向かっています。モータも類を外れておらず、年々小型、軽量化が進んでいますが、当然出力は落とすことができないため、熱設計を含め高度な設計が求められています。
ここでは、損失の発生原因と熱設計についてみていきます。

(1) 損失

高調波成分による損失 一言で損失といっても、様々な要因があります。コイルの銅損[1]やコアの鉄損[2][3]が代表的な例ですが、最近では高効率化の要求により、昔は気にしなくてよかった損失も詳細に分析する必要がでてきています。磁石に発生する渦電流などはその典型例です。もともと永久磁石を用いたモータは、トルクを電流によるリラクタンストルクだけでなく磁石の磁力によるマグネットトルクを利用できるため、高効率だということで用いられる機会が増えてきました。しかし、コントローラ、インバータによって実際の駆動状態では電流が空間高調波成分やPWMのキャリア由来成分を多く含んでおり、モータにおける損失が増大することが知られています[4][5]。特にキャリア由来成分によって磁石中の渦電流損失が増えると、熱減磁を引き起こしトルク変動を招く恐れがあります。
対策として、磁石を分割することで渦電流を抑える効果が得られることは良く知られていますが、ロータ表面やステータティース部の形状を変更することで磁束の経路を最適化し、損失低減を実現した報告もあります[6][7][8][9]。この報告では、磁束線の様子を観察することが磁路特定や対策検討の基点となっています。CAEツールを用いて効率マップを作成することで、制御方式や安定性などを含めた検討も良く行われています[10][11][12][13][14]。

漏れ磁束による損失
最近注目され始めている損失に、漂遊負荷損があげられます[15][16][17]。モータの小型高出力化が進み、磁束が漏れることを前提に設計する設計者が増えてきていますが、モータの漏れ磁束はケースなど周囲の金属に渦電流を発生させます。特に高回転での駆動時には、発熱量が増大し、異常加熱の問題にまで発展する場合もあります。ステータのバックヨーク幅が小さいモータなどでは特にケースでの渦電流を考える必要があります。
漏れ磁束は積層鋼板にも渦電流を発生させる場合があります。積層鋼板は層状に鋼板を重ねることにより、積層方向に生じる渦電流を低減した材料です。しかし、漏れ磁による軸方向の磁束が生じると、面内方向の絶縁は行われていないため積層面内に渦電流が発生し、損失の要因となります。ロータにエンドプレートが取り付けてある場合も同様に注意が必要です[18]。

製造過程に起因する損失
無視できない損失の要因として、焼き嵌めやかしめによる特性劣化があげられます。フレームとステータコアの接合強度を上げるために焼き嵌めやかしめを行うと、ステータ内に圧縮応力が働き、付加された応力により透磁率や鉄損が変化します[19]。ステータの形状を変更し磁束の少ない場所に応力を集中させることで、鉄損を13%も低減させた事例[20]などあり、高効率化に向けて検討すべき項目のひとつとなっています。

(2) 熱設計

上述のように高効率化を進めたとしても、損失を完全に無くすことはできません。またすでに述べたように、モータの小型高出力化が求められていますので、熱設計上限界ぎりぎりでの駆動が前提となる場合が多くなってきています。出力を大きくしようとすると損失が増え、モータ各部の温度を上昇させます。高温になると温度依存性の高い磁石では負荷逆減磁が発生して熱破壊を起こす危険があり[21]、コイルでは抵抗値が上がりさらに損失を増やす悪循環に陥る場合もあります。このように高出力と発熱にはトレードオフがあり、熱マネージメントが必要になります[22][23][24]。
熱マネージメントを行うためには、まず発熱源を特定する必要があります。発熱源は損失が発生している箇所ですので、損失低減と同じアプローチを行うことになります。発熱源を特定することで、発熱を抑える対策や熱の逃げ道、冷却方法などの検討を行うことができるようになります[25][26][27]。

積層鋼板に生じる渦電流分布積層鋼板に生じる渦電流分布

漏れ磁束によるエンドプレートのジュール損失漏れ磁束によるエンドプレートのジュール損失

JMAGの貢献

JMAGでは、実機を用いた実験だけでは難しい、損失の発生要因、発生箇所の特定が行えます。実際の解析方法については、アプリケーションカタログ(以降、JAC。)を参照していただきたいと思いますが、JMAGが選択されている理由を次にご紹介いたします。

(1) 利便性と柔軟性を備えた材料モデリング

高精度な解析結果を得るためには、高精度なモデリングが必要です。中でも材料のモデリングは損失を求める上で極めて重要な要素となります[15][16]。JMAGは、12社、700項目以上の豊富な材料データを保有しています。細かいパラメータ設定をしなくても、材料をツリーからモデルへドラッグ&ドロップするだけで希望の材料特性を得ることができます。鉄損の磁束密度依存性や応力依存性を持った材料も多数登録されているため、応力依存性を考慮した鉄損解析などを簡単に行うことができます。
材料の各パラメータをユーザーが設定することもできます。JMAGの材料データをベースに鉄損の情報のみ測定データを使用するなど自由な設定が可能です。

ロータコアのジュール損失周波数成分ロータコアのジュール損失周波数成分

鉄損密度分布(左:応力考慮なし、右:応力考慮あり)鉄損密度分布(左:応力考慮なし、右:応力考慮あり)

(2) 様々な損失を求めるための計算機能

JMAGの鉄損計算機能(鉄損条件、鉄損スタディ)では、鉄損の要因となっている渦電流やヒステリシス損失をそれぞれ求めることができます[JAC69][JAC106]。材料の非線形性を考慮して計算されるため、高精度の結果を得ることができます。特に渦電流の計算[JAC22]では、表皮厚を考慮した表皮メッシュ機能を用いてモデル表層付近のみを詳細に計算することが可能です。得られた損失を用いて、効率が求まります[JAC58][JAC103]。また、回路連携機能を用いることで、インバータなど実際の駆動状態でキャリア高調波を考慮した損失を求めることができます[30][31][32][JAC90][JAC59]。回路との連携は、駆動時の電流波形が解析に使用できるだけでなく、回路側の制御システムを確認するために用いられます。SRモータで励磁タイミングの最適化を行うことで損失低減を実現した報告もあります[33]。
JMAGでは、構造解析で得られた応力分布を磁界解析の条件として設定することができます。事前に構造解析を行い、焼き嵌めや圧入による応力分布を求めることで、透磁率や鉄損の応力依存性を考慮した解析を行うことができます[JAC87][JAC142]。また、磁界解析で得られた損失を熱解析の条件として設定する[JAC18]ことができますので、発熱源を特定するだけでなく、駆動時のモータの温度上昇傾向なども解析することが可能です。磁石の温度上昇による熱減磁の影響も求めることができます[JAC120]

(3) 多彩なポスト機能による表現力

解析の結果から如何に多くの勝ちある情報を引き出せるかが、解析の質を決めます。JMAGは多彩なポスト機能を提供し、様々な角度からの結果評価を支援します。マルチカットプレーン機能により、渦電流の流れをモデル内部まで詳細に確認したり、プローブ機能で任意点の磁束の時刻歴を確認したりすることができます。磁束の経路も磁束線を3Dで表示して確認することが可能です。また、グラフ機能を用いて、損失の時刻歴からFFTによる周波数成分の抽出も簡単に行えます。

まとめ

本レポートでは、モータ開発の課題から省エネルギー、高効率について取り上げ、JMAGがどのように使用されているかをご紹介いたしました。
次回は、低振動、低騒音化と低コスト化に焦点をあてます。

参考文献

高調波成分による損失

[1] Patel. B. Reddy、Theodore. P. Bohn「Transposition Effects on Bundle Proximity Losses in High-Speed PM Machines」、IEEE ECCE 2009 p.1919-1926
[2] Kan Akatsuら「Impact of Flux Weakening Current to the Iron Loss in an IPMSM Including PWM Carrier Effect」、IEEE ECCE 2009 p.1927-1932
[3] Mahmoud A. Sayed、Takaharu Takeshita「All Nodes voltage Regulation and Line Loss Minimization in Loop Distribution System Using UPFC」、IEEE ECCE 2009 p.2719-2726
[4] 山崎克己、大木俊治ら「永久磁石渦電流損を低減した集中巻IPMモータの開発」、IEEJ-Trans IA vol.129 No.11 (2009) p.1022
[5] Katsumi Yamazaki、Shunji Ohkiら「Reduction of Magnet Eddy Current Loss in Interior Permanent Magnet Motors with Concentrated Windings」、IEEE ECCE 2009 p.3963-3969
[6] Patel. B. Reddy、T. M. Jahns「Modeling of Stator Teeth-Tip Iron Losses in Fractional-Slot Concentrated Winding Surface PM Machines」、IEEE ECCE 2009 p.1903-1910
[7] Liang Fang、Hyuk Namら「Rotor Saliency Improved Structural Design For Cost Reduction in Single-phase Line-Start Permanent Magnet Motor」、IEEE ECCE 2009 p. 139-146
[8] Katsumi Yamazaki、Shunji Ohkiら「Reduction of Magnet Eddy Current Loss in Interior Permanent Magnet Motors with Concentrated Windings」、IEEE ECCE 2009 p.3963-3969
[9] Patel. B. Reddy、T. M. Jahns「Modeling of Stator Teeth-Tip Iron Losses in Fractional-Slot Concentrated Winding Surface PM Machines」、IEEE ECCE 2009 p.1903-1910
[10] Liang Fang、Hyuk Namら「Rotor Saliency Improved Structural Design For Cost Reduction in Single-phase Line-Start Permanent Magnet Motor」、IEEE ECCE 2009 p. 139-146
[11] Natee Limsuwan, Yuichi Shibukawa, David Reigosaら「Novel Design of Flux-Intensifying Interior Permanent Magnet Synchronous Machine Suitable for Power Conversion and Self-Sensing Control at Very Low Speed」、IEEE ECCE 2010 p.555-562
[12] Yuichi Takano、Masatugu Takemotoら「Torque Density and Efficiency Improvements of a Switched Reluctance Motor without Rare Earth Material for Hybrid Vehicles」、IEEE ECCE 2010 p.2653-2659
[13] Tomoaki Shigeta、Takashi Katouら「New Concept Motor that User Compound Magnet Motive Forces For EV Application」、IEEE ECCE 2010 p.2963-2970
[14] David G.Dorrell、Mircea Popescu、Andrew M. Knightら「Comparison of Different Motor Design Drives for Hybrid Electric Vehicles」、IEEE ECCE 2010 p.3352-3359

漏れ磁束による損失

[15] Aldo Bogliettiら「Impact of the Supply Voltage on the Stray Load Losses in Induction Motors」、IEEE ECCE 2009 p.1267-1272
[16] Emmanuel B. Agamloh「An evaluation of induction machine stray load loss from collated test result」、IEEE ECCE 2009 p.1273-1279
[17] G. Pellegrino、A. Vagati、F. Villata「Core loss and torque ripple in IPM machines: dedicated modeling and design trade off」、IEEE ECCE 2009 p.1911-1918
[18] 河瀬順洋「最近の大規模三次元有限要素解析と応用例」、JMAG User Conference 2004講演論文集 (2004) p.12-1

製造過程に起因する損失

[19] 小堀勝ら「ハイブリッド型ステッピングモータへの電磁界解析的用例」、JMAG Users Conference 2009講演論文集 (2009) p.16-1
[20] 吉川祐一「エアコン用IPMSMの変革と今後の動向」、JMAG Users Conference 2006講演論文集 (2006) p.20-1

熱設計

[21] 樋口大「希土類磁石の最新開発動向」、JMAG Users Conference 2009講演論文集 (2009) p.9-1
[22] David Gerada、Chris Geradaら「Optimal Split Ratio for High Speed Induction Machines」、IEEE ECCE 2010 p.10-16
[23] Yao Duan「A Novel Method for Multi-Objective Design and Optimization of Three Phase Induction Machines」、IEEE ECCE 2010 p.284-291
[24] S. Andrew Semideyら「Optimal Electromagnetic-Thermo-Mechanical Integrated Design for Surface Mount Permanent Magnet Machines Considering Load Profiles」、IEEE ECCE 2010 p.3646-3653
[25] Dave Farnia、Tetsuya Hattoriら「Electro-mechanical and Thermal Simulation of a Permanent Magnet Brushless DC motor」、JMAG User Conference 2006 講演論文集 (2006) p.7-1
[26] David Reigosa, Michael W. Degnerら「Magnet Temprature Estimation in Surface PM Machines Using High Frequency Signal Injection」、IEEE ECCE 2009 p.1296-1303
[27] David Reigosa、Michael W. Degnerら「Temperature Issues in Saliency-Tracking Based Sensorless Methods for PM Synchronous Machines」、IEEE ECCE 2010 p.3123-3130

JMAGの貢献

[28] 茂木尚ら「無方向製電磁鋼板の動向と評価技術」、JMAG User Conference 2006講演論文集 (2006) p.21-1
[29] 丸川泰弘「NdFeB系永久磁石の最新動向及設計技術」、JMAG User Conference 2006講演論文集(2006) p.22-1
[30] 山崎克己ら「インバータ駆動誘導電動機のキャリア損」、IEEJ-Trans IA vol.129 No.11 (2009) p.1068
[31] 青山真大ら「小型車に適したHEV駆動用モータの開発およびJMAG-RTを用いた制御連成解析の紹介」、JMAG Users Conference 2009講演論文集 (2009) p.15-1
[32] 成田一行ら「晴海1号プロジェクトの報告」、JMAG Users Conference 2009講演論文集 (2009) p.23-1
[33] 鈴木貴紀、田中直輝、深尾正、二宮弘憲ら「高効率スイッチトリラクタンスモータの開発」IEEJ-Trans IA vol.126 No.4 (2006) p.511

[JAC69] IPMモータの鉄損解析
[JAC106] ブラシモータの鉄損解析
[JAC22] IPMモータの永久磁石渦電流解析
[JAC58] IPMモータの効率解析
[JAC103] 永久磁石同期モータの効率解析
[JAC90] PWMを考慮したIPMモータの鉄損解析
[JAC59] PWMを考慮したIPMモータの鉄損解析~直接連携~
[JAC87] 焼き嵌めを考慮したIPMモータの鉄損解析
[JAC142] 分割コアの圧入解析
[JAC18] IPMモータの熱解析
[JAC120] SPMモータの熱減磁解析

[JMAG Newsletter 2010年9月号より]

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