高周波熱錬株式会社

日本での誘導加熱(IH)技術のパイオニア
JMAG活用で、高周波熱処理の更なる高精度化、高品質化を実現

高周波熱錬株式会社

誘導加熱(IH)技術を利用して金属部材に高周波熱処理を行う国内トップメーカが高周波熱錬株式会社、呼称「ネツレン」。IH技術を基盤に新技術、新製品を次々と開発しているだけに、IH技術の最先端のノウハウを保有しています。そこで活用されているのがJSOLの電磁界解析ソフトウェア「JMAG」。高周波熱処理における試作期間の短縮や熱処理品質の向上の他に、更なる新しいIH技術の開発にもJMAGは大きく貢献しています。

高周波の電磁誘導現象を利用して金属部材に焼きを入れる

社名である「高周波熱錬」という意味の解説も含めて、御社の事業内容をご紹介いただけますか

堀野氏:
当社は、わが国で初めてIH(Induction Heating=誘導加熱)技術の工業化・事業化に成功したパイオニア企業です。IHはクリーンな電気を熱源としており、地球環境にやさしい無公害(Ecological)・省資源(Economical)のダブル・エコ(W-Eco)な技術です。
高周波焼入れとは、電磁(高周波)誘導現象を利用した熱処理によって金属部材の強度と耐久性を高める表面硬化法の一つです。日本刀の焼入れをご存知と思いますが、焼入れとは被加熱物(ワーク)を約1,000℃に加熱してオーステナイトという組織にし、それを水冷などで急冷することでマルテンサイトという非常に硬い組織に変態させることを言います。
高周波焼入れでは加熱コイルと呼ばれる銅製の部材を利用します。加熱コイルに高周波電流を流すことにより、交番磁束がワーク表面に集中して発生します。その際、電磁誘導作用によってうず電流が誘起されて、ワークを加熱します。これは家庭にあるIHクッキングヒーターと同じ原理です。加熱時の周波数、電力、加熱時間、保持時間、加熱コイル形状などをワークの形状や材質に応じて選択することで、それぞれのワークに求められる熱処理品質を与えることができます。
当社では土木・建築用のPC鋼棒や自動車用ばね鋼線など熱処理された線材製品の製造・販売や自動車・建設機械部品などの受託熱処理業務、さらに高周波熱処理設備も製造・販売も行っております。

御社におけるシミュレーションへの取り組みはいつ頃からですか。

堀野氏:
商用ソフトウェアを導入し本格的に取り組み始めたのは1990年ごろからでした。熱処理プロセスには職人技が必要で、長年の経験と勘がものをいう世界です。また、その技術も非常に属人的なものが多く、技術伝承が大きな課題でした。そこにシミュレーション技術を導入することで、熱処理品質に最適な加熱時間や周波数、冷却時間を求めたり、新技術の裏付けなどを行っています。現場では熱処理の大まかな方向性を得られるだけでもシミュレーションを利用するメリットは非常に大きいです。

圧倒的な使い良さや手厚いサポート 共同研究で成果も

JMAGを採用いただいたのは、どのような理由からですか。

堀野氏:
JMAGを導入したのは2007年のことでした。それまで使っていた他社のソフトウェアは、機能面で少し見劣りがしていました。たとえば、加熱コイルでは電流は全断面に流れるのではなく、ワークに近い所に多く発生します。正確な温度分布を求めるためには、これをきちんとシミュレートする必要がありますが、他社のソフトウェアではこれを考慮することが出来ませんでした。その点、JMAGは電気回路と連成させることで、複雑形状の加熱コイルであっても自動的に断面内部の電流分布を計算することができます。その結果、より正確で詳細な解析が可能になり、開発・設計のリードタイム短縮に大きく貢献してくれています。また、サポートも他社よりも機動的で内容も満足のいくもので、共同研究を企画して具体的にお力をお借りすることもできました。

JMAGを用いた「2周波誘導加熱解析」もそうした共同研究の一つですね。

堀野氏:
そうです。2007年のJMAGユーザー会にて「JMAG-Studioを用いた2周波誘導加熱解析」のタイトルで発表させて頂きました。
ワークの形状や熱処理品質の仕様が変わると、適切な周波数は変わります。従来は必要な周波数ごとに高周波電源設備を用意する必要がありました。しかし、2周波加熱技術を用いれば、1台の高周波電源から任意の周波数を出力できますので、最適周波数による焼入れを行うことが可能です(図1、図2)。当社では多周波加熱技術として、ホットスイッチング方式とオーバーラップ方式の2種類用意しています。これらはJMAGにて解析することが可能で、最適な電力バランスや加熱時間などを求めることが出来ます。

具体的にはどのような事例が考えられますか。

堀野氏:
平歯車の歯部表面に沿って高周波焼入れを行うケースでご説明しますと、低周波だけでは歯車の歯底(凹みの部分)しか加熱できませんし、高周波だけでは歯先(凸の先端部分)しか加熱できません。しかし低周波と高周波を併用することで、歯部形状に沿った均一な焼入れ(輪郭焼入れ)が可能となります(図2)。

図1 歯車と加熱コイル図1 歯車と加熱コイル

図2 加熱後の歯車の温度分布図2 加熱後の歯車の温度分布

見方を変えれば、JMAGのシミュレーションは、コイル側の設計や条件設定に重要なアイデアを与えてくれるということですね。

堀野氏:
はい、これまでは長年の経験と勘で模索していましたが、JMAGを活用して最適な加熱コイル形状や熱処理条件を求めることで、高い精度で指針を得られるようになりました。なかには開発時間が半分になった事例もあります。

「高周波熱処理解析」で、さらなる精度の高いシミュレーション領域へ

自動車部品をはじめとして「薄肉軽量化、複雑化かつ強度確保」という流れが強まっていますが、JMAGはそうした要請に応えられていますか。

堀野氏:
当社内では、JMAGへの期待は年々高まっています。「高周波熱処理シミュレーション」への期待と言い換えても良いと思います。
少し詳しくお話しすれば、シミュレーション技術を活用して検討したい要因は、大きく4つあります。つまり、[1]設備設計、[2]加熱コイル形状、[3]熱処理条件、[4]熱処理品質などです。これらは当然、個別には解析できますが、JMAGに熱処理解析ソフトウェアを連成させて「高周波熱処理工程全体をシミュレーションする」手法を当社では確立しており、高精度なシミュレーションを実施可能です(図3)。磁場解析をベースにして熱解析、金属組織解析、応力/ひずみ解析が相互に関連する関係にあります。
このシミュレーションで得られた結果を時系列的に見ていけば、熱処理中になぜ変形するのかとか、なぜ残留応力が発生するのかといった問題に答を見出せます。これにより、自動車部品の薄肉軽量化、複雑化に対して、低変形でかつ最適な熱処理品質の確保するためのツールとして活用することが出来ます。

図3 「高周波熱処理解析システム」図3 「高周波熱処理解析システム」

具体的にはどのようなケースに適用されますか。

堀野氏:
ヘリカルギアの事例で考えますと、JMAGでは加熱範囲や加熱温度の予測ができます。JMAGに構造解析を連成させると、加熱中は上下に歯先が広がりつつ、歯のねじれ角度が変わる様子を確認できます。また、加熱過程だけでなく冷却過程のシミュレーションを実施することで、焼入範囲や変形量、残留応力を予測可能です。つまり熱処理を一つの総合的な現象としてワークの状態の変遷を見ることができるわけです。
それが何を意味しているかと言えば、狙いとする熱処理品質や機能性をより的確に実現するための要素や条件を事前に予測できるということです。これにより、熱処理中に発生する想定外の事態をなくし、高品質な部品を開発する糸口となります(図4、図5)。

図4 ヘリカルギアと加熱コイル図4 ヘリカルギアと加熱コイル

図5 加熱前の形状と加熱後の温度分布と変形図5 加熱前の形状と加熱後の温度分布と変形

つまり部品形状が複雑化することへの現実的かつ機動的な対応策となる、と。

堀野氏:
そうです。シミュレーションソフトウェア上でもワークが回転・移動したりすれば、複雑形状であっても的確に計算できるようになります。複雑化する部品の熱処理条件を事前に予測出来れば、シミュレーションの活用もさらに進むでしょう。

それは当然、JMAGの機能への要望へとつながりますね。

堀野氏:
JMAGの三次元対応をさらに強化して欲しいですね。より複雑な形状を扱おうと思うと、モデル規模が非常に大きくなります。解析時間をもっと短縮し、解析結果を表示する速度も向上して欲しいです。

生産現場でのJMAG活用策は無限で、効率性向上にさらに貢献

これからのJMAG活用についてお考えをお聞かせください。

堀野氏:
現在、私が所管する技術本部技術部CAE開発課では、すべての社内事業部からの要望に応えていますし、次の時代につながる研究・開発にも力を注いでいます。
また、社内にCAEをさらに活用してもらうために、2012年度から現業部署の方にもJMAGを使った研修活動を始めました。今後はJMAGを生産現場の近くでも活用し、さらなる熱処理品質の向上や新技術の開発のためのツールにしたいと考えています。そのうえで我々は、もう少し高度な研究課題に取り組む体制を考えています。

JMAGが御社の技術の底上げに貢献できれば幸いです。

堀野氏:
高周波焼入れはワーク1個流しが基本であり、大型部品に適用出来るメリットもあります。だからこそ、JMAGは予測ツールとして現場でも大きな力を発揮すると思います。
また、設計や試作の一部にCAEが関与することで、後工程で予想されるトラブルを事前に潰すなど、新技術の検証などもできますので、お客様へのCS面でも満足度の高い対応が可能になります。
これらの活動を通じて、IH技術は地球環境にやさしいダブル・エコ(W-Eco)な技術があることを、もっと世の中に訴えていきたいですね。

お話を伺った方

堀野 孝 氏

高周波熱錬株式会社
技術本部技術部
CAE開発課 課長
堀野 孝 氏

高周波熱錬株式会社(Neturen Co.Ltd.)
商号:
高周波熱錬株式会社(Neturen Co.Ltd.)
代表者:
代表取締役社長 福原哲一
資本金:
64億18百万円
連結従業員数:
1167人
上場市場:
東京証券取引所・市場第一部
事業概要:
わが国における電磁誘導加熱(焼入れ)の工業化のパイオニア企業。1946年に日本高周波重工業から分離し、高周波焼き入れ装置の製作ならびに各種の機械部品の表面焼き入れ業務を開始。現在は、誘導加熱技術を核に、主要3事業がある。製品事業部では、ビル建設で使われるPC鋼棒や高強度せん断補強筋といった建設用資材、コイルばね用高強度鋼線(ITW)などを製造・販売。IH事業部では、各種の熱処理の受託加工のほか、誘導加熱装置を製造・販売している。

[JMAG Newsletter 2012年6月号より]