JMAGを利用した顧客対応力でシェアを獲得
ロボットから小さなマイクロステッピングモータまで幅広い製品群を扱っている日本電産サンキョー株式会社。迅速な営業フットワークで提案から製品化へのスピーディな展開を可能にし、変化が激しい市場の中でSankyoの製品群は世界トップクラスのシェアを誇っている。そのスピードと製品の開発・設計を支えているのが電磁界シミュレーションのJMAG。日本電産サンキョーの本社で技術開発本部長の宮崎清史執行役員と開発を支える長野開発技術研究所の佐藤恒雄課長代理、鶴田稔史課長代理に市場でシェアを握る秘訣とJMAG導入のメリットや活用方法をお聞きした。
激動するモータ市場でシェアを確保
宮崎氏:
弊社では動くものをキーワードに幅広い製品群を扱っています。その中でも現在のベースはアクチュエーターです。カメラのレンズを動かす非常に小さなアクチュエーターの設計・開発・製造など電磁気を扱ったシステムが多く、磁気シミュレーションは弊社の中でも重要な役割を担い、我々の商品開発を支えています。
最近は市場の変化が激しく色々変わりますが、全体の売上比率は、システム機器に関わるものが約30%で、パーツやユニットが約70%です。各市場でのシェアはデジカメや携帯電話のレンズアクチュエーターが相当伸びており、ビデオカメラのレンズを動かすアクチュエーターでは60%のシェアを誇っています。弊社では製品展開を決定した場合、中途半端なシェアではなく、必ず市場の中でシェアトップを目指します。
宮崎氏:
お客様からこんなものがないかとご相談をいただいた時には競合他社の中で一番早く、期待以上のものを提案しています。競合よりも早くお客様に お答えすることを目指すと仕事の8割、9割は受注できます。また、我々の専門分野に関しては絶対に負けないとシェアに拘ります。また、日本電産グループ全体ではテーマ性のあるものには特に注力をしています。1つ目は省エネ。白物家電でも設備でも液晶や太陽光発電のように必ず省エネやエコロジーというテーマがあります。2つ目は軽薄短小。より小さく、軽くすることには付加価値があります。材料を減らすということは省エネにも繋がり、相対的にモノの付加価値率が上がります。3つ目はハーフプライス。値段を今の半分に安く下げていく。新しい市場や新商品の背景にはこの3つのテーマが必ず存在しており、お客様のニーズがあります。
シミュレーションの中核を担うJMAG
佐藤氏:
我々の製品は電磁気によって動くものが多く、それを支え、製品開発の中核を担っているのが、電磁界シミュレーションです。CAE導入当時の狙いとしてはモノを作らずに解析で特性を予測する。簡単に言うとそういうことです。特に最近は、世の中のトレンドに併せ、我々が扱う製品そのものがとても小さなモノになっており、過去の経験だけでは特性の予測がつきにくくなってきました。経験で特性を出せると思っても中々でない。これはCAEを使わないと絶対に進まないと思いました。一旦ミスをしてしまったら、後から手直しは効きません。お客様の要求に対して迅速に最適な解を導き出すためには最適化した設計が必要になってきます。我々がCAEを導入した80年代からこの考え方がありました。現在は、シミュレーションだけであれば1週間以内にお客様の要求に答えています。
鶴田氏:
我々のテーマにある軽薄短小はまさにギリギリを突き詰めてたどりついた結論でないと実現できません。取扱い製品はモータがメインですので、数あるソフトウェアの中からモータの動きを考慮できるJMAGを選択し、導入しました。JMAGはスライド面と移動量を定義すればひとつのモデルで簡単に回転ができます。それが一番のメリットとなり、導入後は飛躍的に解析モデルを作る時間が導入前に比べ短縮できました。
佐藤氏:
まず始めに我々の組織をご説明しますと、本社の開発部隊で長野開発技術研究所という組織に所属し、電磁界シミュレーションと材料の分析を行っています。各事業所にも解析業務を兼務しているメンバーもいますが、私と鶴田の2名が解析専任者として、主に各事業所で賄えない難しい解析や各事業所の技術者への教育を行っています。
鶴田氏:
我々の解析の歴史は古く、磁場解析がスタートしたのは80年代の半ば頃で、有限要素法理論やプログラミングなどを大学の先生に教えを請いながら学ぶところから始まりました。当時はワークステーションもソフトウェアも非常に高額だったので、社内でプログラミングしていた時期もありました。最初は解析結果が合った、合わなかったというレベルで、80%くらいの精度でした。
佐藤氏:
その後、JMAG以外のソフトウェアを利用していた時期もありますが、どれも動きを考慮する機能としては不足しており、98年にJMAGを導入しました。JMAGは解析のための機能が充実しており、モデル化が容易で動くものを完全に考慮しているというのが導入決定の理由でした。その結果、飛躍的に磁場解析の使用頻度が増え、更にJMAGでフリーメッシュが出来るようになってからは3次元CADの普及時期とも重なり、設計者でもJMAGを扱えるようになりました。電磁界解析は構造解析と比べると比較的敷居は高いのですが、弊社では社内教育をおこなっているので設計者でも解析専任者が行っている解析業務と同様なことが出来きるようになりました。今ではJMAGがないとお客様と話もできないくらい重要なツールとなりました。
鶴田氏:
頻繁にJMAGを使っているのは全社で10名程度です。私がモータやアクチュエーターなど弊社製品にフォーカスした操作マニュアルを作成し、解析を必要とする設計者に講習しています。特性の算出方法は我々が必要なもののみ記載しているので、飲み込みが早い人であれば教えた直後に操作マニュアルを見ながら特性まで1人で算出できるようになります。『非線形や反復回数とか収束値とかは考えずにこの数値を使ってください。』とマニュアルに指示しておりますので、理論的なことを知りたければ、後ほど教えるようにしていますが、まずは理論よりも道具として使うことを第一優先でやっています。そうすることで計算時間の目安がつき、パーフェクトではありませんが、お客様に提案する上での解析精度、解析品質に大きく外されずにスピーディに結果を出すことが出来ます。
携帯電話向けレンズアクチュエータ
JMAGを利用した営業提案が受注力を向上させる
鶴田氏:
弊社は携帯カメラに入るアクチュエーターやステッピングモータなど、小型なモノの取り扱いが多いので、それに対するトルクや推力の要求仕様を満たす為の検討をJMAGで行っています。
宮崎氏:
昔は試作をすればよかったのですが、最近はお客様に提案をする際に、『要求に対する結果の根拠を出してください。 』と必ず言われます。『解析をしたらこういう特性がシミュレーションでは出て、マージンを見てもここまでは多分大丈夫です。』という具体的な話にしないと『試作をしてくれ。』という段階には進みません。やってみないとわかりませんでは、お金を出してくれません。昔は、『うまく特性が出ていないので、もう一度やり直します』と言うことが通用していましたが、今は提案の迅速さが重要なので、蓄積された経験と解析技術により試作を繰り返さずに一発で決めることが重要になっています。
宮崎氏:
JMAGで計算した根拠をもってお客様に『できますよ!』と提案し、受注をしてから試作を作り出します。要するに試作機段階というのはものの性能を出すというよりは、作り方や組み立ての提案段階にはいってしまうんです。性能は出ないはずがない。出てあたり前という段階です。大体、お客様から要求を頂いてから試作を持っていくという時までには3ヶ月くらいしかありません。だから試作を1回繰り返す時間がない。相当念入りに計算をしておいてから一発勝負で出さないと『もう1回やり直します。』という話には出来ません。もちろん簡単な試作はしますが、もうそれは動作に向けた点検です。微妙なチューニングをするということですね。お客様からシミュレーションをしていないものは持ってくるな。と言われる場合もあります。
佐藤氏:
たまにお客様から『どんなソフトウェアを使っていますか?』とご質問を受けることがあるのですが勿論『JMAGです。』とお答えしています。JMAGをよくご存知なお客様はとても多いですね。試作段階に入り、モノが出来上がったらその結果とシミュレーション結果を比較し、違っていたらその差分を補正して、解析精度を向上させています。具体的には材料特性をちょっと補正するところです。それで結果が外れたことはないですし、お客様からクレームがきたこともありません。
携帯電話カメラ用レンズアクチュエータ外観図
磁気解析 1/4対称モデル
鶴田氏:
JMAG導入の費用対効果を数字として具体的に出すことは難しいのですが、試作品1つ作るにも相当な試作費がかかります。通常、製品を作る上で数回の試作を行わないといけませんが、それがJMAGを使う事で1回で済みます。試作数回分以上のコストの節約が出来ているのではないでしょうか。
宮崎氏:
費用対効果もさることながら世の中がどんどん進んでしまっていてシミュレーションできっちり検証されていない提案をお客様が受け付けてくれなくなっている。つまり、シミュレーションしない事には土俵に上がれなくなってきている。費用対効果はあるのでしょうけど、ないと売りにいけない。お客さんに提案できない。だから当たり前のツールになってしまっています。例えば、お客様に1週間で提案をしようとすると1週間で試作機を作って提案をするか、あるいはシミュレーションと今までの経験により提案をするかどちらかしかないんですね。ただ1週間では試作機は作れないので頑張って1ヶ月で作ってお客様に持っていった頃には1週間で提案をしたところが既に受注をしてしまっているので比較にならない。そういうことです。とはいえ製品設計自体をコンピューターがやってはくれませんから、技術者の今までの蓄積された経験とツールとしてJMAGを使ってお客様に結果を出しています。
磁束密度分布図
可動部ストロークに対する電磁力
コイル電流に対する可動部ストローク
JMAGへの今後の期待と日本電産サンキョーの最新開発状況
鶴田氏:
設計者からみるとJMAGは煩雑ですね。できるだけメッシュなどを意識させないでパラメータをセットしたらメッシュはお任せでやれれば、設計者が自分の設計業務の道からはずれずに解析ができると思います。また、設計者がお客様に要求されるのは1週間や明日までにといった時間がないものが頻繁にあります。そういうときに有限要素法で計算していると一晩では終わらない場合があるので、大体の結果が早く分かるツールを望んでいます。
解析者の場合は一言で言うと連成解析に尽きますね。設計者が簡単なことはどんどんやり始めてきているので、今後、解析専任者がやることは連成解析がメインになってくると思います。JMAGのモジュールを全部そろえると損失からの熱解析や振動、騒音の解析が出来ますよね。あと回路の制御も出来ると思います。後は流体解析が出来ればいいですね。モータが発熱するところまでシミュレーションできて、そこに水を流したらどれだけ冷却できるか考慮できれば有難いです。
宮崎氏:
弊社ではデジタル機器の小型集積化が進む中、モバイル思向の高いデジタルカメラやビデオカメラでの採用に向けて独自のモジュールチルト方式による手ぶれ補正ユニット「HBシリーズ」を発表しました。2012年度には売上高150億円、世界シェア60パーセント以上をターゲットにしています。この光学式手ブレ補正ユニットは自転車のハンドルにつけてもぶれません。スポーツ中継や映画等で映像がぶれずにヘリコプターから撮影されたようなシーンをご覧になったことがあると思いますが、あれはカメラを雲台という振動吸収装置に載せて制震を実現しています。このレンズアクチュエーターの中には同様のシステムが入っています。開発期間は3ヶ月で、解析者は携わらず、設計者だけでJMAGを使い、500種類のパターンをシミュレーションし比較しました。解析者が作ったマニュアル通りにやればこのような開発も可能です。このような新しいニーズの開発にはJMAGがないと話にならない。というくらい重要なツールとなっています。
光学式手ブレ補正ユニット HBシリーズ(試作品)
お話を伺った方
日本電産サンキョー株式会社
執行役員
技術開発本部長
宮崎清史 氏
日本電産サンキョー株式会社
長野開発技術研究所
研究業務グループ
課長代理
佐藤恒雄 氏
日本電産サンキョー株式会社
長野開発技術研究所
研究業務グループ
課長代理
鶴田稔史 氏

[JMAG Newsletter 2009年11月号より]